研究室_蛇足的研究
2022年10月21日 |
清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!
研究作品 No_138 【誤訳】 (シリーズ作品/隠花の飾り:第五話) 〔小説新潮〕 1978年(昭和53年)6月号 |
世界的な詩歌文学賞であるスキーベ賞の本年度受賞はペチェルク国の詩人プラク・ムル氏に決定した。来る三月二十日にデンマークの首都コペンハーゲンで授賞式が行われる。副賞は七万ドル。 外語大教授の麻生静一郎は、この新聞外電を読む前にその内報をロンドンのジャネット・ネイビアからうけとっていた。ネイビア夫人は語学の天才ともいえるひとで、少なくとも十ヵ国語以上には通じていた。とにかくいまは衰退し滅亡寸前となっている世界各地の少数民族(曾つては繁栄せる民族であったが)の言葉を研究し、それぞれの会話も自由であった。ネイビア夫人はすぐれた言語学者でもあった。 |
シリーズ作品【隠花の飾り】第五話 「スキーベ賞」は、架空の設定のようだ。 「ペチェルク」は、架空ではない。ウクライナのキエフ近郊のようだ。 詩人、「プラク・ムル」は、ハッキリしない。「ジャネット・ネイビア」もハッキリしないが、どちらも架空の人物のようだ。 隠花の飾りの第五話だが、三話の「北の火箭」同様、外国を舞台に設定している。当時清張は頻繁に外国に行っているので 創作活動もその時期の特徴が現れている。 登場人物の設定が「北の火箭」に似通っている。 ●【北村薫×宮部みゆき 対談「名短篇はここにある」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開】 北村薫×宮部みゆき 対談「名短篇はここにある」―作家生活30周年記念・秘蔵原稿公開 | 対談・鼎談 | Book Bang −ブックバン− 上記より引用 北村 「誤訳」はどうです。私、これ読んだことなかったですよ。 宮部 非常に短い作品ですよね。 北村 感心しましたね。というのは、下手心に書いたら理屈の先走ったとんでもない話になりかねないでしょ。 それを清張先生が書くとこんなに読めちゃうのかというすごさ。特に出だしなんか、他の人が書いたらもたないですよ。 宮部 「スキーベ賞の本年度受賞はペチェルク国の詩人プラク・ムル氏に決定した」。 北村 普通、この書き出しでアウトですよ。 SFかな、と思っちゃう。それを清張さんは人間心理の綾(あや)を描いた見事な短篇に仕上げている。 宮部 私はタイトルにそそられましたね。 清張さんが森鴎外に傾倒していたのは有名な話で、文学を研究する人に大変な尊敬を払っていらした。 その方がお書きになった「誤訳」というタイトルの作品なら、「さぁ、どんな話だろう」とワクワクします。 北村 なるほど。そう思うと「或(あ)る『小倉日記』伝」に通じるものがありますね。 あの中で鴎外と離れて併走する主人公と、「誤訳」でプラク・ムル氏に併走する女性翻訳者がダブってきます。 対談の内容からも期待が膨らむ。 |