研究室_蛇足的研究
2021年06月21日 |
清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!
研究作品 No_116 〔彩色江戸切り絵図・一話〕 【大黒屋】 〔オール讀物〕 1964年(昭和39年)1月号〜2月号 |
文久二年正月一五日の八ツ(午後二時)ごろのことだった。日本橋堀江町の通りを二十七,八くらいの職人風な男が歩いていた。この辺りは焼芋を売る店が多い。その匂いが寒い風に混じって流れていた。この焼芋屋は冬の間だけで、春になるとすべて団扇屋に早替わりする。役者の似顔絵の団扇も、この堀江町から売出されたものだ。秋風が立つと団扇が駄目になるので、団扇が焼芋屋に早替わりするわけである。また、この辺りには穀物問屋がならんでいる。職人がふと足を停めたのは、それほど大きくない穀物問屋の店から、三十一,二くらいの大きな男がふらりと出て来たからだった。その男は酒気をおびている。十五日というと、まだ正月気分が抜けずに振舞酒を出すところもあるから、これはふしぎではない。ただ、その職人が男に眼をつけたのは、酔った彼の人相がよくないのと、その男の出ていったあとで四十七,八ぐらいの雇女が塩を撒いていることだった。 |
日本橋堀江町。現町名では、中央区日本橋小舟町、日本橋小網町あたりか。 冬場は焼き芋屋で、春になると、団扇(うちわ)屋に早替わりとはおもしろい。 書き出しでは、登場人物が三人。 二十七,八の職人風の男。 三十一,二の大きな男。酒気を帯びている。 四十七,八の穀物問屋の雇女 なぜか、年齢が几帳面に書き込まれている。 怪しい人物は、「三十一,二の大きな男。酒気を帯びている。」だろう。 |