研究室_蛇足的研究

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2019年1月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_092

 絢爛たる流離:第七話


研究発表=No 092

絢爛たる流離
 〔婦人公論:1963年(昭和38年)7月号〕

山辺澄子は、毎日、父親の経営する骨董店の店先にぼんやりと座っていた。父親は、そういう澄子の姿をなるべく見ないようにしていた。彼は娘の暗い翳にまつわられている。嫁入り前の娘と、離縁になって帰った娘との感じがまるで違っていた。今は崩れた「女」を感じていた。父親は忙しそうに外を飛び回った。 【絢爛たる流離:夕日の城】蔵書:松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離:婦人公論 1963年(昭和38年)7月号

山辺澄子は、毎日、父親の経営する骨董店の店先にぼんやりと座っていた。父親は、そういう澄子の姿をなるべく見ないようにしていた。彼は娘の暗い翳にまつわられている。嫁入り前の娘と、離縁になって帰った娘との感じがまるで違っていた。今は崩れた「女」を感じていた。父親は忙しそうに外を飛び回った。彼は骨董の興味と金儲けとに没頭しはじめていた。彼はよく同業者を店に連れてきた。ほとんどが年輩者ばかりで、なかには七十ぐらいの老人もいた。彼らはちょっと見ただけでは職業に見当がつかなかった。自家用車かハイヤーをよく使っていた。これは骨董ものを運ぶためで、桐の四角い函や長い函などがものものしく鬱金の風呂敷に包まれていた。店先では彼らの仲間が集まって、今にも百万や二百万円は稼げそうな、景気のいいことばかりを言っていた。どこそこの旧家にはどういうものが残っているとか、売立てがあるとか、茶を飲みながら長話をした。

前作「夕日の城」(第六話)の続き。登場人物も、山辺澄子。
前作で、縁談があった澄子だが、会社員で事務員だった二十五歳の女が、父親の経営する
>骨董店の店先にぼんやり座っていた。
とされ、離縁されていたのだが、山辺澄子がおかしい。
離縁になって帰ってきたとはいえ、『今は崩れた「女」を感じていた。』
結婚生活は何年続いたのか? 離縁の原因は? 何が「崩れた女」にさせたのか?
父親と澄子の関係もおかしな雰囲気だ。
書き出しでは、父親の名前は出ないが骨董商でその周りに集まる輩は相変わらずである。
「夕日の城」で何が起きたのか、続けて読まなければ理解できないであろう。