研究室_蛇足的研究

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2015年11月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_069

 【火の記憶(原題:記憶)


研究発表=No 069

【火の記憶】 〔小説公園〕 1953年10月号(改題.改稿)/[三田文学]1952年3月号(原題:記憶) 

頼子が高村泰雄との交際から結婚にすすむ時、兄から一寸故障があった。兄の貞一は泰雄に二,三回会って彼の人物を知っている。貞一の苦情というのは泰雄の人柄でなく、泰雄の戸籍謄本を見てからのことだった。 【松本清張全集 35 或る「小倉日記」伝・短編1】より

頼子が高村泰雄との交際から結婚にすすむ時、兄から一寸故障があった。
兄の貞一は泰雄に二,三回会って彼の人物を知っている。
貞一の苦情というのは泰雄の人柄でなく、泰雄の戸籍謄本を見てからのことだった。
その戸籍面には、母死亡、同胞のないのはいいとして、その父が失踪宣告を記されて名前が
除籍されていた。
「これはどうしたのだ、頼子は高村君からこのことで何か聞いたかい?」
滅多にないことだから、貞一が気にかけたのであろう。
頼子の家では父が亡くなってからは万事この兄が中心になっている。
三十五歳、ある出版社に勤め、既に子供がいる。
「ええ、何かご商売に失敗なすって、家出されたまま、消息がないと仰言っていましたわ」
それはその通りに頼子は聞いていた。
が、泰雄がそれを云ったときの言葉の調子は何か苦渋なものが隠されているように感じられた。
それで悪いような気がして、そのとき、頼子は深くは訊かなかった。

                   研究
原題は「記憶」。改題して「火の記憶」。
『三田文学』1952年3月号に『記憶』のタイトルで掲載、のちに現在のタイトルに
改題・改稿の上、『小説公園』1953年10月号に再掲載。

頼子の結婚話。はじめから問題噴出の展開だ。
頼子の家庭は、父が死亡、兄が家長として振る舞っている。母の存在は不明。
結婚相手の高村泰雄の事情も複雑、母は死亡。父は行方不明(失踪宣告)
商売に失敗して家出、そのまま消息がないと頼子は聞いている。
泰雄が言いにくそうに云った。どうやら泰雄の家族(父)が伏線のようだ。

つかみはOK。
清張の「或る『小倉日記』伝」の前に書かれた作品である。
初期中の初期に書かれた作品だけに、清張作品の原点とも云える作品ではなかろうか?
「西郷札」「火の記憶」「或る『小倉日記』伝」は清張三部作とも言える。