研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室:完成登録

2014年03月19日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_060

 【典雅な姉弟(影の車:五話)


研究発表=No 060

【典雅な姉弟】 〔婦人公論〕 1961年5月号

東京の麻布の高台でT坂といえば、高級な住宅地として高名だった。明治時代には、このあたりに政府高官の邸や、富豪の邸宅があった。(株)文藝春秋『松本清張全集1』 点と線・時間の習俗 初版1971/04/20より

東京の麻布の高台でT坂といえば、高級な住宅地として高名だった。明治時代には、このあたりに政府高官の邸や、富豪の邸宅があった。今でもそのときの伝統は残っている。近くには、外国公館がさまざまな美しい国旗を立てて散在している。緑色の森陰に白亜の舘を見るのは、ちょっとした異国情緒だった。それに高台が多く、その谷間を繁ぐに急な坂道となっている。だから、坂には甃の刻みがあり、光の加減で鮮やかな模様が翳る。長い塀が幾段にも屈折して、道の両側に伸びていた。近くの外国公館から、西洋夫人が犬でも連れて出て来て、この道を散歩しようものなら、とんと日本ではないような錯覚が起きる。もちろん、道は一筋ではない。途中、小さな狭い路地が幾つもに岐れている。そこに入っても、必ず瀟洒な構えの邸宅があることに間違いはなかった。

                   研究
>東京の麻布の高台でT坂といえば、高級な住宅地として高名だった。
麻布でT坂とは鳥居坂だろう。(地図を参照)
鳥居坂以外にも、坂の多い地域である。

地図を見れば一目同然です。
時代設定(作品発表は1960年)からすれば、半世紀は過ぎているが、近くの六本木ヒルズの再開発
とは対極で描写の雰囲気が残っている。
外国公館(大使館)としては、フィリピン、シンガポール大使館、近くにはオーストリア、ロシア(ソ連)
大使館などが点在する。
題名からして、姉弟はこの地に住んでいるのであろう。
『兄弟』(きょうだい)は、その関係で響きがずいぶん違う。
特に同性でない場合、「兄妹」「姉弟」では独特の響きがある。
「典雅」とは、『正しくととのっていて上品なさま。』
「典雅」と「姉弟」で何か淫靡な世界を想像させられる。
「題名に関する一考察」(No004)でも取り上げたが、清張らしいタイトルである。