研究室_蛇足的研究

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2013年11月15日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_057

 【発作


研究発表=No 057

【発作】 〔新潮〕 1957年9月号

田杉は十時すぎて眼をさました。暖かいと思ったら、カーテンの合せ目の隙から射した陽が首の上まで来ていた。(株)文藝春秋『松本清張全集 37 装飾評伝・短編3』●初版1973/02/20より

田杉は十時すぎて眼をさました。暖かいと思ったら、カーテンの合せ目の隙から射した陽が首の上まで来ていた。今日も暑そうな天気であった。六畳一部屋が、本だの古新聞だの茶碗だの果物の皮だので、足の踏み場がなかった。田杉は、便所に行くためドアをあけると、挟んであった新聞がばさりと落ちた。その下に白い封筒がのぞいて見えた。上書きの字だけで、どこから来たか一目でわかった。朝のながい小便をしながら、読まないでも知れている手紙の内容のことをぼんやり思った。廊下では、掃除しているよその部屋の女房が、歩いている田杉のだらしない恰好を、斜めに見送った。田杉は新聞を拾い上げて、もう一度床の中に寝転がると丹念に読み出した。べつに興味はなかった。興味がないから裏表を二度繰りかえして読んだ。頭に何も残らないのだ。それからようやく封筒を指につまんだ。

                   研究

何ともむさ苦しい部屋の情況、田杉の生活態度。
休日でもなさそうだが、十時過ぎに起きても平気な職業なのか、サラリーマンではなさそうだ。
田杉は独身者らしいが、女房持ちも住んでいるアパート。
読まないでも分かる内容の手紙とは?誰からのものか?
何も起きていないが、事件は始まっているような書き出しである。
黒沢映画の「野良犬」や「酔いどれ天使」の一場面が想像できるような内容である。