研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2013年6月30日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_055

 【証言


研究発表=No 055

【証言】 〔週刊朝日〕 1958年12月21日号〜28日号

女は、鏡に向かって化粧を直していた。小型の三面鏡は、石野貞一郎が先月買ってやったものである。 (株)文藝春秋『松本清張全集4 黒い画集』●初版1971/08/20より

女は、鏡に向かって化粧を直していた。小型の三面鏡は、石野貞一郎が先月買ってやったものである。その横にある洋服箪笥も、整理箪笥もそうである。ただ、デパートから買入れの時日だけが違っていた。部屋は四畳半二間だが、無駄のないように調度の配置がしてあった。若い女の色彩と雰囲気とが匂っている。四十八歳の石野貞一郎が、この部屋に外からはいってくるとたんに、いつも春風のように感じる花やかさであった。石野貞一郎の自宅はもっと大きくて広い。しかし、柔らかさがない。乾燥した空気が充満し調度は高価でも色あせて冷たい。家族の間に身を置いても、彼は自分の体温の中に閉じこもる姿勢になるのだ。家庭で目を開けていると、自分の心まで冷えてくるのである。石野貞一郎は洋服に手早く着替えて畳の上に身を横たえ片肘立てて煙草を喫っていた。目は女の化粧している後ろ姿を眺めている。梅谷千恵子は若い。着ているブラウスやスカートの色も、化粧の仕方も目のさめるような光をもっていた。

                   研究

女の歳は?
四十八歳の石野貞一郎との関係は?
石野の家庭環境と、おそらく愛人であろう梅谷千恵子の関係が手に取るように解る。
二人の関係がどう展開されるか、タイトルの「証言」にはたどり着けない書き出しである。
三面鏡は時代を感じさせる。最近あまり聞かないが女の部屋には付きものなのだろうか?
1958年の作品である。清張は50歳、「黒地の絵」「ゼロの焦点」「無宿人別帳」と傑作を連発している
時期である。