研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2007年1月1日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_032

 【箱根初詣で(隠花の飾り・第9話)


研究発表=No 032

【箱根初詣で(隠花の飾り・第9話)1979年1月 〔小説新潮〕

昨夜フロントに五時間半のモーニングコール(朝起し)を頼んだが、それをあてにする必要はなかった。......◎蔵書◎隠花の飾り(第9話)(株)新潮社●1979/12/05/初版より

昨夜フロントに五時間半のモーニングコール(朝起し)を頼んだが、それをあてにする必要はなかった。慶子は部屋に隣り合ったせまい温泉風呂から上がって鏡の前に座っていた。目蓋の裏に渋を塗ったように眠気と疲労が粘りついていた。カーテンの隙間から見える外は夜だった。ホテル敷地内の青白い外灯が眩しく、鈎の手になった別棟の窓にも橙色の灯がいくつか闇にこぼれている。それでも近い山の上に空がうっすらと乳色がかっていた。湯音を騒がせて夫の弘吉が浴室から上がってきた。禿げた頭に湯気が立ち、頸から胸のあたりが真赤だった。肥った身体を動かしてズボンをはき、シャツをつけ、どっかと尻を据えて沓下をはいている。緩慢な動作だったが、心臓肥大のため荒い呼吸をしていた。慶子は知らぬ顔で化粧をつづける。

研究

モーニングコール(朝起し)は、何ともご丁寧である。
ホテルと言うより温泉旅館を感じさせる、朝の風景である。
いささか倦怠期を感じさせる夫婦、でも温泉旅行をする程度の夫婦仲なのか?
心臓肥大で荒い呼吸をしている夫。それを冷たい目で見ながら「知らぬ顔」をする妻。

ここまでで、勝手に推理すれば
>目蓋の裏に渋を塗ったように眠気と疲労が粘りついていた。
は、昨晩の情事を想像させる。妻は若い、後妻か?
若い愛人を持つ妻、夫に対する殺意、五時間半のモーニングコールは早すぎる。
が、タイトルの「箱根初詣で」からして、これから初詣で?
きっと夫の提案であろう、嫌々従う妻。

蛇足
ハツモウデを変換すると「初詣」(ハツモウデ)になってしまう。「で」の送りがなは必要なのか?
まさか、「初詣で」(ハツモウデデ)が正解ではなかろう。