研究発表=No 018
【延命の負債】1977年 「小説新潮」
村野末吉は若いときから心臓がよくない。ときどき胸がしめあげられるように痛む。どの医者も僧帽弁に狭窄があるといった。病名は自分でもわかりすぎているので、注射をしてもらったりして帰る。思い切って手術をしませんか、と医者はすすめた。手術は人工弁の入れかえだという。十年前まではそんなことはいわれなかった。医術の発達である。入院すればどのくらいで退院できますかときくと、一か月半もあれば充分でしょうといわれた。むろんそれだけの設備と、内臓外科に熟達した医者をもつ大きな病院でないといけないという。一か月半の入院とは末吉にとって現実ばなれした問題で、長いあいだのこれまでどおりのやりかたで薬を飲んで心臓をかばい、万一の発作時にそなえてニトログリセリンの薬を携帯して働く生活をつづけた。 |
研究
延命は、村野末吉の命であろう。医療問題が主役なのか。医療技術の進歩は、末吉のような患者を延命させる。しかし、一か月半の入院生活が、現実ばなれした問題と考える末吉に何が起こるのであろうか。題名が示す負債とは?延命は負債と相殺されるのであろう。
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