研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2002年09月22日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_010

 【奇妙な被告


紹介No 010

【奇妙な被告】1970年 「オール讀物」

事件は単純に見えた。秋の夜、六十二歳になる金貸しの老人が、二十八歳の男に自宅で撲殺された。......◎蔵書◎「火神被殺」文藝春秋●1975年4月5日(4版)より

事件は単純に見えた。秋の夜、六十二歳になる金貸しの老人が、二十八歳の男に自宅で撲殺された。犯人は老人の手提金庫を奪って逃げ、途中で金庫を破壊して中の借用証書二十二通の中から五通を抜き、その手提金庫は灌漑用の溜池に捨てて逃走した、というものである。住宅の造成がすすんでいる東京の西郊だが、そのへんはまだ半分は田畑が残っているという地帯だった。若い弁護士の原島直己が、所属する弁護士会からこの事件被告の国選弁護を依頼されたとき、あまり気がすすまないのでよほど断ろうかと思った。ほかに三つの事件(これは私選の弁護)を持っているので相当に忙しい。それを理由に辞退してもよかったが、弁護士会の事務長が、実は所属の他の弁護士がいったん引き受けたのだが、急病で断ってきた、公判も間もなくはじまる予定で裁判所も当惑しているから、できるなら引きうけていただきたい、事件は単純だから適当にやってもらって結構、と、あとの言葉は低くいった。

研究

国選弁護士の実体はこんなものなのだろう。男の平均寿命が74歳?の時代に六十二歳の金貸しの老人とは時代を感じさせる。最初に事件の全容を解説している。問題は題名の「奇妙な被告」が示すとおり被告と国選弁護士の係わり合いであろう。推理小説の手法は、犯人当てやトリック中心の謎解き、そして完全犯罪。しかし清張は時々、事件そのものより、犯罪者の人間自体に焦点を当てて描くことがある。書き出しからして、おそらく、被告そのものが中心なのであろう。