研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2002年08月04日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_009

 【告訴せず


紹介No 009

【告訴せず】1973年 「週刊朝日」

容貌の程度も平均以下で、風采も上がらない四十半ばの男は、群衆の中ではただの夾雑物でしかない。......◎蔵書◎「告訴せず」光文社新書(KAPPANOVELS)1975年11月01日(51版)より

容貌の程度も平均以下で、風采も上がらない四十半ばの男は、群衆の中ではただの夾雑物でしかない。その人間が歩いていても立ちどまっていても、近くの人々に眼にはその動作だけがぼんやりと眼の端に動いているだけで、顔や服装の特徴には何の印象も残らない。雑踏の中で立ちどまられると、通行人は行く手が塞がれて除けて通らなければならないので、その男の顔を瞬間ひと睨みはするが、それでいて、あとではさっぱり思い出せないといったふうなのだ。何かの犯罪が起こって目撃者から人相の証言を取るとき、その申し立てがきまってまちまちになるという警察泣かせの顔だった。それだからといって、そういう種類の顔がかならずしも平凡というのではない。よく見ると特徴はあるのだ。印象に残らないのは、人々が印象にとどめるほどには注目しないということなのだろう。そもそも注意を払わないというのは、その人間の容貌や風采のぜんたいが、ありふれ過ぎていて魅力を感じさせないことに帰するのだが。木谷省吾がそういう人間の一人であった。

研究

主人公は『ありふれ過ぎていて魅力を感じさせないことに帰するのだが。』で、すべてを語り、40半ばの男、木谷省吾を登場させている。彼を特徴付けようとして描かれていることは特徴のない男と言うことである。執拗に描かれた「どこにでもいるありふれた人間」を主人公に展開される小説は、犯罪が起こっても警察泣かせの顔として今後を予言している。題名からも、書き出しからも「特徴のない」研究不能のスタートである。