研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2002年03月29日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_008

 【余生の幅


紹介No 008

【余生の幅】1966年 「文藝春秋」

文吉が急に弱りはじめたのは、留守に本妻の梅子が戻ってからだった。......◎蔵書◎「延命の負債」角川文庫1987年6月25日(初版)より

文吉が急に弱りはじめたのは、留守に本妻の梅子が戻ってからだった。それもわずか四十分くらいの間であった。だから、老人はそれを隣に住んでいる息子夫婦の手引きに間違いないと死ぬまで疑った。寝たきりの菅沼文吉は、この地方都市では名が知られていた。酒醸造の商売が成功して財産が出来たのが四十代だった。十数人の雇い人を使って派手にやっていたが、六十一で脳軟化症で卒倒した。酒醸造業はその三年前に廃めていた。息子がこの商売をきらって大阪の会社につとめていたので、後をつづけるものがいなかったのである。  

研究

本妻というからには妾の存在があるはずだ。40代で財産を持った男には当然女である?衰弱の原因が本妻梅子である。「留守に戻った」が誰の留守に、なのか?また、「戻った」とは、誰がどこからどこへ「戻ったのか」曖昧である。当然読み進めば理解できるのであるが、導入部としては説明不足である。さて、寝たきりの老人「文吉」は、息子は、まだ登場しない「妾」は、いつもながら登場人物は市井の人々である。題名の余生の幅とは誰のものなのか?書き出しだけでは「文吉」の余生か?