紹介作品No 127 【万葉翡翠】 〔【サンデー毎日】1960年(昭和35年)8月7日号 「ぼくはね、万葉考古学をやりたいと思っていた時期があったよ」S大学の若い考古学助教授の八木修蔵は、研究室で三人の学生と雑談しているときに云った。三人の学生というのは、今岡三郎、杉原忠良、岡村忠夫である。三人とも考古学を専攻しているのではなく、趣味として八木教授のところに出入りしているのだった。「神社考古学というのがありますね?」今岡三郎が云った。「ああ、ある。宮地直一先生が唱えられたものだ。神社の祭器だとか遺蹟、それに神籬、磐境だといわれている神籠石などを考古学的に解釈する学問だね。神社には、古代の形式が伝承されている。それから古代生活を探求しようとするのだ」「先生の万葉考古学というのも、おもしろそうですね」杉原が云った。「万葉の歌に織り込まれた字句から、古代の生活を探求しようというわけですね」「まあ、そういったところだな」●蔵書【松本清張全集 1 点と線・時間の習俗】(株)文藝春秋●「婦人公論」1961年(昭和36年)1月号
登場人物
研究室への入り口