紹介作品 No_118  【逃亡】(原題:江戸秘紋) 


 

紹介作品No 118

【逃亡 〔「信濃毎日新聞・夕刊」(大系社扱い)1958年(昭和33年)7月〕
文政十二年(一八二九年)三月二十一日の巳の刻(午前十時)に江戸神田久間町河岸から火が出た。この朝一時間前にちょっとした地震があったが、ちょうど、出火の起こったころは、西北の風が土砂を吹き立てて、あたりが夜のように暗くなっていた。おりから佐久間町河岸の材木商尾張屋徳右衛門の材木小屋の前では職人たちが焚火をしていた。三月の末というと、すでに上野の桜も散ったあとだが、この日は奇妙な天気でうすら寒かったのである。材木屋の本宅では昼食の用意が出来たといって職人たちを呼び集めた。火を囲んでいた者たちは焚火のあと始末を十分にしたつもりだったが、どこか不十分なところがあったとみえ、残り火が強風にあおられて横の鉋屑に燃え移った。その火はさらに隣のは葉莨屋に移った。材木屋で気がついたときはもう手がつけられないくらいに火が燃え上がっている。激しい風は炎を横倒しに噴きつのらせ、火の粉を霰のように飛散させた。●蔵書松本清張全集 29 逃亡・大奥婦女記:「「信濃毎日新聞・夕刊」(大系社扱い)」1958年(昭和33年)7月

蛇足的研究で書いた
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江戸の火事:出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
で上記の絵柄の但し書きが目を引いた。

>『むさしあぶみ』より、明暦の大火当時の浅草門。
>牢獄からの罪人解き放ちを「集団脱走」と誤解した役人が門を閉ざしたため、逃げ場を失った多数の避難民が炎に巻かれ、
>塀を乗り越えた末に堀に落ちていく状況。

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が、ズバリだった。



今回、「逃亡」(原題:江戸秘紋)を取り上げたのは、徹底検証03の【『鬼火の町』と『大黒屋』】を書き始めて思いついたのであった。
詳細と云うか、具体的には、徹底検証03の【『鬼火の町』と『大黒屋』】で取り上げる。

長編なので、それなりの登場人物がある。その人物が名前を変えながらも再会するストーリー展開は、ご都合主義とも云えなくもないが面白い。
しかも、「大山詣り」で大山の山中に集結する。とても「大山詣り」の趣旨に一致する動機での結集ではない。

源次は、賭博の果ての喧嘩なのか微罪で入牢することになる。下谷の岡っ引き梅三郎のお縄になったのだが、この梅三郎が陰険で極悪非道な奴だから
始末が悪い。狢の梅三郎なのだ。
文政の大火は牢屋敷のある伝馬町に迫ってくる。

牢奉行石出帯刀(イデシタテワキ)の解放令で囚人たちは解放される。ただし、明朝までに神田の回向院へ集まることが条件だっった。
焼き出された源次は、途中で上州無宿の勘八と出会いそのまま回向院へ向かう。
囚人たちは回向院へ向かう途中も回向院でも暴れ放題だった。(回向院で納所が登場/納所坊主は「鬼火の町」・「大黒屋」のキーワード)
明日には、微罪の源次は、おとなしく伝馬町の牢へ帰るつもりでいた。
回向院の裏庭で女の悲鳴を聞いた。同じ囚人の富太という男が女を手籠めにしようとしていた。
ひょうんなことから源次はその女を助ける。助けた女を向島まで送る事になる。(この経緯は源次がただの悪党でないことが分かる)
女は、お仙と名乗り常磐津の師匠と云った。源次の素性を大方知りながら、風呂に入れ、酒に料理で家に泊めた。
この女がくせ者で、梅三郎の囲われ者。
寝込む源次をのぞきに来る梅三郎。気づいて、お仙の旦那を確認する源次。それぞれが相手を確認するが、お仙は源次との経緯を梅三郎に話している。
梅三郎と子分の桶屋の熊五郎に連れられて番小屋に行く。
番小屋のおやじは卯平と云って六十ばかりの年寄りだった。俗に番太郎と呼ばれていた。
一晩卯平に預けられた源次は、番小屋で卯平と身の上話をすることになる。梅三郎に先回りして言い含められている卯平は、源次の云うことを信じないが
>「おめえ、そりゃ嘘じゃあるめいな?」
眼を据えて念押しした卯平。それから源次に対する卯平の扱いが変わってくる。
お仙と名乗った梅三郎の囲われ女がお米といい、八丈島で死んだ流人の女房だと教えてくれた。(この話は後の伏線になる)
お仙の素性話しを手土産に卯平は源次逃がす。源次は死んだ卯平の息子と同じ年頃だった。源次は逃げた後の卯平の身の上を心配しながら...達者で!

お仙を名乗るお米のもとに向かう源次。梅三郎の素性を洗おうとお米を攻めるが、なかなか白状しない。終いには隙を突いて「泥棒~」と大声を上げられ
這々の体で逃げ出す羽目になる。したたかなお米だった。
空腹に耐えかね押し入った家が仏壇や箪笥の錺師の家。
この家には、五十年配のおやじ、伝兵衛。息子の伝助、背が高く目つきが鋭い男。最初に源次を見つけた若い女、娘のお蝶。
お蝶は源次を悪い男とは思っていないようだ。兄の伝助は少々乱暴者。おやじは頑丈そうな体格。

卯平は梅三郎から取り調べを受けていた。卯平は寝ている間に逃げたの一点張りで口を割らない。
卯平は腹が据わっていた。入牢、島送りをチラつかせながらの梅三郎の攻めに反転攻勢に出る。
岡っ引きでありながらの梅三郎の悪事を引き合いに出しての脅しである。ぎょっとする梅三郎。
勝負はあった。梅三郎は引き下がることしか出来なかった。

源次が飯食い盗人に入った家は、錺師の家。話はあらぬ方向へ進む。
源次は、伝助からこの家で働かないかと誘われる。もちろん無宿者を雇うとするくらいだからこの家にも何か秘密がある。
夜になるとどこかでカンカンと金槌で叩く音が聞こえる。お蝶に聞くと遠くないところに鍛冶屋があるという。
錺師の家に雇われた源次だが仕事はそうきつくもない。お蝶も世話を焼いてくれるし居心地が良かった。
伝兵衛に「...近所のことはもとより、この界隈の町内のこともあんまり気にとめるんじゃねえぞ」と、釘を刺された。
お蝶に聞いた鍛冶屋の件だと思い当たった。
気にするなと云われれば気になる。金槌の音が気になる源次はそれを確かめたくなる。
お蝶は相変わらず親切だ。源次もそれに答えて器用なところを見せお蝶の役に立ってやる。
源次はお蝶とのやりとりの中で、それぞれの年齢がはっきりする。伝助は二十四歳、源次は二十五歳、お蝶は十七歳。
嫁取りの話の中でふとお蝶の真剣さを感じる源次だった。

再び聞こえた金槌の音に目を覚まし、音の出先を突き止めようとする源次は、伝助に見つかり、お蝶の部屋に逃げ込む。
伝助に踏み込まれながらも、お蝶に匿われた源次だった。その晩は二人はなにもなく分かれた。

源次は、お蝶から誘われた。うぶなお蝶は源次に惚れている。伝助は、今日から二,三日かけて八王子の取引先へ出かける今晩部屋に訪ねてくれと云う。
伝助は居ないが、むしろ伝兵衛が気になる源次は、お蝶の部屋へ夜這いするのを躊躇する。
お蝶が源次の部屋へ忍び込んできた。何もかも覚悟の上だ。
これを幸いに源次は金槌の音の先を聞こうとする。音の先はこの家の床下からであった。ある程度の話は聞けたが、お蝶も詳しいことは知らないようだ。
足音がする。伝兵衛らしい。二人は結ばれそうな場面から現実に引き戻される。お蝶を部屋に帰すと伝兵衛が源次に声をかけた。

あくる朝、お蝶は具合が悪く寝込んでいるという。伝兵衛と二人で朝飯。突然伝兵衛が云った。
「仕事場はこの畳の下だ」
伝兵衛は全てを承知していた。問われて源次は、この家の床下で作られた物がご禁制の細工物だろうと推量を言った。伝兵衛は否定しなかった。
この時点での源次の推量は贋金ではなかった。
伝兵衛が承知していたのは、源次の床下の興味だけではなかった。お蝶との仲も承知していた。
伝兵衛はお蝶を折檻して口を割らしていた。可愛い一人娘を取られた伝兵衛は怒り狂っていた。可愛さ余って憎さが百倍か...。
襲いかかる伝兵衛に抵抗する源次だが、その脇にお蝶が、猿ぐつわの上、縛られて転がされていた。お蝶の眼は源次に抵抗を止めるように懇願していた。
伝兵衛は、お蝶とは親子の縁を切った、明日の朝伝助が帰ってきたらおまえたちを好きにするだろうと言い放って、二人を縛ったまま転がした。
親父である男伝兵衛の仕掛けがあった。縛られたはずだが、二人なら縄を解くことが出来た。小判が転がっていた。伝兵衛の親心だった。
道行きを決めた二人は手に手を取って逃げ出した。

方角も目的もなく逃げ出した二人がたどり着いたのが...長屋の軒下。身体が戸板に当たってしまい、音がしてしまった。小窓から「誰だ?」
「おめえ、ちょいと面を見せな」
「おや、おめいは源次じゃねえか?」
声をかけたのは番屋の老人、番太郎の卯平だった。(ちょっとご都合主義か?/偶然①)
卯平は事情があって今では子供相手にあめ売りをしていた。
源次とお蝶は。卯平に親切にして貰う。まるで親子と若夫婦の所帯のようにである。
卯平の親切の甘えてばかりもおられなく、外に出て働く事の出来ない源次に代わって、お蝶が料理屋の女中になって働くことになる。
卯平の口利きで湯島の料理屋の女中になるお蝶。料理屋の名前は「松葉屋」
「松葉屋」の女将は「お米」。主立った女中は、「お八重」と「お秋」。お蝶は、その中でも一番の器量よしで女将に気に入られる。
ところが、とんでもないことに女将の旦那が岡っ引きの梅三郎。お仙と名乗っていた常磐津の師匠である。勿論、源次も知っているお米なのだ。(偶然②)
お蝶が亭主持ちで名は文次朗、建具職人と言うことにしている。
「松葉屋」には加賀屋敷から侍が時々やってきていた。その中に石川という侍がいた。どうやら、お蝶が気に入ったらしい。
源次は、毎晩のようにお蝶を迎えに「松葉屋」の近くまで行った。その日の帰り道は二人だけではなかった。梅三郎の子分丑松が後を付けていた。
丑松は源次の面を知らない。二人を付けていった先に卯平が現れて驚く。

丑松の御注進で卯平の存在を知らされた、さすがに梅三郎も驚く。
梅三郎は、内密に丑松に、お蝶の亭主を探らせる。丑松の報告を聞いてもお蝶の亭主が源次とは夢にも思わなかった。
梅三郎は、お蝶に興味を持った。その器量と云い若さが魅力だった。お米に見透かされながらも、その昔お米を手にれた方法で悪巧みを考えていた。

熊五郎が「松葉屋」に居る梅三郎を訪ねてくる。熊五郎も梅三郎の子分だが、源次の面を知っている。丑松と同じようにお蝶の亭主を探らせていた。
熊五郎の報告を聞いて驚く。
お蝶が亭主が源次であることが梅三郎の知るところになる。

お蝶は、梅三郎の手の中で良いようにされることになる。
子細は簡単だ。俺の云うことを聞け。そうすれば源次は見逃してやる。
道行き同然で源次と逃げているお蝶。親切に匿ってくれている卯平。やがては自分の親と伝助まで迷惑が掛かる。
お蝶は、梅三郎の云うことを聞く以外逃げ場はなかった。
向両国の「柳家」にお蝶を呼び出す。
約束は間違いないだろうと、念を押すお蝶。「......約束は必ず守る」梅三郎は云った。約束など守るはずのない男だ。
お蝶は、梅三郎の手に落ちた。
源次の無事を見届けるために家に帰ったお蝶が見たのは熊五郎だった。源次も卯平もいない。
騙された!
逃げ出したお蝶は隅田川へ身投げ。

源次は再び牢の中。卯平も一緒だ。
源次はお蝶に裏切られたと思っている。卯平はそれは思い違いと宥める。
白砂での取り調べ・折檻で源次は、息も絶え絶えで牢に戻される。
源次はお蝶に裏切られた一心で復讐を誓うが牢内では何も出来ない。卯平は相変わらず何かの間違いでお蝶はそんな女ではないと源次に聞かせる。
三人の科人が入牢してきた。その一人が野州島山在の安吉と云った。よくしゃべる男だった
その安吉が土左衛門になった女を引き上げた話を始めた。なんと、その女は湯島天神下の料理屋で働いている女だという。(偶然③)
源次が安吉に詰め寄るが名前までは分からない。が、お蝶に間違いなさそうだ。お蝶の裏切りではない。梅三郎に騙され自ら命を絶ったのだ。
牢名主が「おめいの知っている女か?」と聞く。卯平が代わって子細を話す。

牢中で梅三郎の悪事が話される。あまりの悪辣な梅三郎。科人たちの同情は一つの意志となって実行される。
牢中で火事を起こす。それに紛れて源次を逃がす算段をする。牢名主公認の火付けだ。隅の隠居も、三番役も手枕で転がっている。
卯平と勘八が主導してまんまと逃亡に成功する。逃亡したのは源次と勘八。

銭のない二人は、通りがかりの籠を襲う。籠には町医者が乗っていた。医者は浅草の仏壇屋の加賀屋からの帰りだと云った。(これも偶然のうちか?)
医者から奪った金を分けて二人は別々に逃げる。実は医者から巻き上げた二分金が贋金だった。伝兵衛親子が関わっているのではと源次は考えた。

梅三郎に復習するためにも、向島の囲われ女がいる家に向かう源次。そこにはお仙(お米)も梅三郎も居なかった。湯島天神の「松葉屋」らしい。
源次は「松葉屋」の女将の正体を知る。

木賃宿で再び出会った勘八と源次は、加賀屋を強請ることにした。これには源次の策略があった。
このあたりから話は急展開する。
二人で加賀屋を強請ると見せかけて、吉次を名乗った源次は、勘八を襲い始末すると大川へ投げ込む。
加賀屋も承知のことで、これをきっかけに吉次(源次)は、加賀屋で働く。

一方、川に投げ込まれた勘八は釣り船の客に引き上げられ息を吹き返す。源次はわざととどめを刺さなかったのか...
釣り船は柳橋の「梅の屋」。その時の釣り船の客は加賀屋敷の侍。この侍が石川。
助けられた勘八は金蔵と名乗った。金蔵(勘八)は、梅の屋で働くことになる。
石川が「梅の屋」にきて金蔵(勘八)は紹介される。釣船を仕立てることになり、船頭の喜助が舟を出す。金蔵(勘八)もお供をする。
石川には連れが居た。金蔵(勘八)は知らないが連れの男はお蝶の兄、伝助だった。
よく働く金蔵(勘八)は、「梅の屋」では重宝がられ、評判は良かった。

加賀屋に住み込んでいる吉次(源次)もよく働いて評判は良かった。
加賀屋には六右衛門と番頭の治兵衛が居た。それに六右衛門を世話する女中が一人、お秋と云った。
吉次(源次)の腹痛からお秋と口を利くようになった源次は驚いた。お秋が湯島天神下の「松葉屋」で働いていたという。(偶然④)
その晩、吉次(源次)はお秋を口説いて物にした。吉次(源次)は本気だったのかどうか...加賀屋の秘密を知りたかっただけなのか?
吉次(源次)は、お秋に加賀屋の内情を探らせる。それは加賀屋と加賀屋敷の侍、石川と梅三郎の連んで働いている悪事の正体だった。

話は「大山詣り」になる。
お秋は、向島の講中に入れて貰っての大山詣りをすると言い出す。源次の心変わり封じと言うわけだ。
源氏も賛成する。それは贋金の使い方を探らせるためであった。だから、お秋一人で行かせるのも不安で、自分も行くと言い出す。勿論お秋は大喜びだ。
講元は植木屋の辰巳屋甚兵衛。何から何まで番頭の治兵衛の世話で段取りが出来る。辰巳屋甚兵衛も加賀屋の仲間か?
旦那の六右衛門に許しを得て出かけることになる。

大山詣でを控えて気持ちがそわそわしているお秋と源次は仲の良い夫婦物のように見えた。
>両国を西に渡り詰めたところが柳橋
船宿「梅の屋」の桟橋を掃除している金蔵(勘八)は、二人連れを見る。源次の姿を眼にとめる。(偶然⑤)
源次は気がつかない。まさか生きているとは思っていないのだ。(勘八を手に掛けたのは本気だった
女連れの源次の他にも、三々五々「大山講」の旗を掲げて歩いていた。
勘八は、船宿の女将に頼み大山詣りの許しを請う。女将の代参もかねて許しがでる。

登場人物が続々と大山へ結集し始める。
加賀屋の六右衛門は悪党だった。番頭の治兵衛と策略を練る。
喧嘩に見せかけて吉次(源次)を殺そうか...
梅三郎に頼んで吉次(源次)を殺そうか...
梅三郎も殺そう。伝助に殺させよう。

源次が参加する講中の御師は仙山。実は仙山は富太だった。(回向院で女を襲っていた富太。相変わらずの女好き)
御師の仙山(富太)は、お秋に目を付けていた。勿論加賀屋の吉次が源次であることも承知。
梅三郎も講中の後を追う。伝助も呼ばれて大山に向かう。植木屋の甚兵衛は加賀屋の六右衛門の手下で贋金使いの一人だ。

それぞれの思惑で揃った登場人物は組んずほぐれつで大山は修羅場と化す。

修羅場の結末は読んでのお楽しみ...

それから半年後、鳴子温泉の湯治場で源次とお秋は卯平とよく似老人に会う。お秋は卯平を知らないが、源次は驚く。
卯平は人違いを装いながら源次に大山での出来事の結末を話す。
お秋もその老人に見覚えがあった。
「今のおじいさんは、松葉屋にお蝶さんを世話したあめ売りの年寄りによく似ていたね?」
話すだけ話して消えていった卯平を呆然と見送る源次だった。

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舞台はそんなに広くないから、登場人物が方々で顔を合わすこともあるだろう。
エンターメント性を発揮するためにも、偶然を意識的に使っているようだ。その事を指摘するのは無粋かも知れない。
偽名が多いのも脛に傷があるお尋ね者ばかりだ。源次=吉次・勘八=金蔵・富太=仙山・お仙=お米



2021年08月21日 記

登場人物

源次(吉次) 二十五歳。微罪で梅三郎のお縄になる。牢に入りながら助けを得て脱獄。女にやさしいせいかもてる。お蝶にお秋。
お秋と道行きで逃亡する。鳴子温泉の湯治場で卯平と遭遇、身を明かさない卯平から大山での修羅場以後の出来事を聞かされる。
お蝶 錺職人の一人娘、十七歳。伝兵衛が親父、伝助は兄。源氏に惚れて道行きとなるが、岡っ引きの梅三郎に知られて脅され言うなりになってしまう。
騙されたことを知り隅田川に身を投げる。
伝兵衛 錺職人。昔女に騙されたことがあり人が変わる。今では息子の伝助と贋金造りを手伝っている。お蝶は一人娘
腹の据わった男で、源次とお蝶が出来たことに腹を立てるが、最期に父親の顔を見せる。
兵助(松五郎) 乱暴者だが話は分かる男。親父と贋金造りをする。二十四歳。加賀屋六右衛門の依頼で、梅三郎を殺す目的で大山に向かう。
梅三郎の前では品川で小間物屋をやっている松五郎と名乗る。
卯平 番小屋の番太郎。子供相手の飴屋になりながらも全うに生きようとする。源次と同じくらいの年頃の息子を亡くしている。
最期まで源次の味方になりかっこよく消えていく。「左の腕」の卯助がモデルか?。
梅三郎  下谷の岡っ引き。その地位を利用して悪事を働く。囲い者のお米も亭主を島送りにし騙して自分の女にする。
同じ手でお蝶を手籠めにする。この話の中では一番の悪党と言える。 
勘八(金蔵)  源次とは小伝馬町の牢仲間。牢名主名や卯平の助けを借りて脱走。源次につきまとうが逆に源次にはめられて殺される。
が、土左衛門になるところを加賀屋敷の侍、石川に助けられる。船宿「梅の屋」で働くとき、源次を見かける。恨みがあり、大山を目指す。
お米(お仙) もとは科人の女房。梅三郎の口車に乗って夫が島流しの間に梅三郎になびく。湯島天神下に料理屋「松葉屋」を開く。
女中にお八恵・お秋そしてお蝶が加わる。加賀屋敷の侍、石川がよく利用する。 
お秋  「松葉屋」の女中。加賀屋の六右衛門の世話のため派遣され、そこで源次と知り合う。
源次がどこまで本気か分からないが女房にすると云い、加賀屋を探らせる。お秋は本気で源次に尽くす。 
お八重  お秋、お蝶の同僚。「松葉屋」女中 
石川   加賀屋敷の侍。贋金造りの中心人物。「松葉屋」のお蝶に熱を上げる。
六右衛門  加賀屋の当主だが、贋金造りの主役。かなりの悪徳商人。梅三郎を利用して源次を殺そうとする。梅三郎は伝助に殺させようとする。
治兵衛  加賀屋の番頭。六右衛門の仲間であり手下。 
甚兵衛  植木屋の辰巳屋甚兵衛。大山詣りの講元。加賀屋の六右衛門の手下 
富太(仙山)  根っからの女好き。最初の火事で逃げた先の回向院で女を襲うが源次に邪魔をされる。仙山を名乗って御師に化けている偽坊主。
大山の山中でお秋を襲うが、逆に谷底に突き落とされる。 
丑松  梅三郎の子分。お蝶の居所を見つける。卯平の存在を発見、梅三郎に御注進。屑屋に化けてお蝶の家に乗り込む。だが、源次の顔は知らない。 
熊五郎  梅三郎の子分。お蝶の男が源次であることを突き止め梅三郎に報告。 

研究室への入り口