紹介作品 No_048  【市長死す】


紹介No 048

【市長死す】 〔別冊小説新潮〕 1956年10月号

田山与太郎は九州のある県の小さな市の市長であった。人口十万、北部に海を持った旧い市である。。「遠くからの声」文庫(講談社文庫)(株)講談社●2版1976/12/15より

少し先が読めた。

砂の器の映画のシーンである。伊勢?の映画館に殺された三木巡査が2日連続で訪れる。なぜ訪れたのか

刑事が捜索する、映画の内容に関係有るのか...

歌舞伎座で休憩中にテレビを見ていた市長。態度が急変する。

いぶかる秘書に話を付けて、志摩川温泉に行く市長。

二日間の約束が過ぎ、「市長が雲がくれ」と書く地元紙。

六日目に、「田山市長は、当地の志摩川に顛落して急死された」 市役所に電報が届く。

市議会議長と議員1人(笠木議員)、秘書、市長の実弟が死体を引き取りに向かう。

地元の警察に案内される一行

市長が泊まった旅館は「臨碧楼」。宿泊時の状況を説明する宿の主人。

案内した地元警察の警部補は「市長さんは、ここから過って落ちられたのです」と説明する。

疑問を持つ議員。笠木議員は議長に市長の志摩川温泉行きを知りたいと迫る。

消極的な議長に、市長の日記を弟から見せてもらうことに同意を求める。

日記から市長の女関係が浮かび上がる。木石ではなかった市長。

終戦間際の朝鮮での出来事である。女中頭芳子の名前が登場する。

「副官山下中尉をして内地へ密航脱出せしむ、渠は木浦より朝鮮漁船を買収して出航せるものの如し。
託するに司令部の官金八万円と芳子を以てす。官金は福岡西部軍司令部へ、芳子はは郷里の佐賀県神崎
町の実家へ送致せしむよう命ず」

早い話し、官金と女(芳子)を護送させたのである。

日記は細々とその後を誌している。

「不可解なり、予は山下中尉の人物を信用せり。渡航の途中にて不測の難に遭遇せし乎」

佐賀の芳子の実家を訪ねた田山(市長)は山下の裏切りを知る。金と女を奪って遁走したのである。

山下と芳子を追う、市長の執念は芳子を見つけた。

初めに戻ることになる。歌舞伎座で観劇の合間の休憩室のテレビである。

宿屋の主人は黒崎(釣り人)へ疑惑を向けようとする。市長の死は事故死ではなく他殺として話は展開する。
笠木の疑問は一気に解決する。旅先から市議会議長に送る手紙はすべてを語っていた。

宿屋での市長の不可解な態度、説明する宿の主人。黒崎なる釣り師の存在を強調する

廊下ですれ違う外股で足を引きずるように歩く女。芳子である。

山下こそ「臨碧楼」の主人浜岡繁雄であり、田山市長を突き落とした犯人であった

NHKのニュース映画を何度も見る笠木は映画「砂の器」の刑事今西栄太郎を彷彿とさせる。

その意味で仕掛けとしての「休憩室のテレビ」は物足りない。

しかし、発表年月日は「砂の器」
1960年(昭和35年)517日〜1961年(昭和36年)420

「市長死す」は
1956年(昭和31年)10月号。「市長死す」の方が古い。


※砂の器は映画館の中にあった写真が手がかりであった。



2010年12月7日 記

登場人物

田山 与太郎 市長。人口十万、九州の或る県。元陸軍中将
笠木議員 商売は醤油醸造業。港湾委員会所属の市議会議員
芳子 女中頭。山下(浜岡繁雄)の妻。外股で歩く女。
山下中尉 浜岡繁雄。「臨碧楼」の主人。軍隊で田山与太郎の部下。
黒崎 志摩川で鮎やヤマメを釣る、釣り師。事件には関係ない。山下が疑惑を向けさせる。
市議会議長 笠木議員に理解を示しつつ常識人的発言、態度。

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