紹介作品 No_024  【留守宅の事件


紹介No 024

【留守宅の事件】1971年 「小説現代」

交番の巡査は、事件捜査記録の「証人尋問調書」のなかに通報を受けたときのことを述べている。......◎蔵書◎水の肌/留守宅の事件●(株)新潮社●1975/10/15(初版)より

夫婦関係は外見からは分からない。隠れテーマ?

殺人事件は動機、殺害方法、そして、殺害場所が問題になる。

どれもアリバイに関係するが、とりわけ殺害場所は不在を証明することで無実となる。

奇妙な出だしで事件は始まる。

交番の巡査(平田巡査)の証言

>私は休憩時間に相当しておりましたので、所内の見張所の時計のところに腰掛けて見張勤務中の
>山口巡査と相撲の話をしておりましたら、一人の男が参りまして、山口巡査に向って
>『勤めから帰ったら、ぼくの妻が殺されていましたからすぐ来て下さい』と云ったので、山口巡査が
>『どうして殺されたのか』と訊ねましたら、『家の裏の物置小屋に横たわっている。どうして殺されたの
>かよくわからないが、とにかく殺されています』と申しました。

当然第一発見者の夫である栗山敏夫が疑われる。

第一発見者は夫であるが、彼が出張中の「留守宅の事件」である。一応アリバイがある。

疑われる友人の萩野光治。栗山敏夫の妻宗子に好意を寄せている。そして、疑われるだけの行動がある。

夫の栗山敏夫が居ないことを良いことに、宗子に会いに行く。

萩野光治を犯人と決めつける決定的証拠がない中、栗山敏夫が妻宗子に掛けた保険金の件が発覚する

栗山敏夫とが妻宗子の冷えた夫婦関係が表面化する。外でかなり派手に遊ぶ夫、夫の出張中に無断で

外泊する妻(外泊と言っても静岡の妹昌子の所である)。それを特別のことと受け止めない夫。

改めて疑われる、夫である栗山敏夫。

後半は栗山敏夫のアリバイ崩しである。

伏線がある。死亡時間である。

福島の友人、萩野光治宅に顔を見せる。福島が犯行の中継地となる

妹の昌子が形見に「ウールのツーピース」を欲しがるが、夫の栗山敏夫はは、見あたらないという。

東北で車のセールスする栗山敏夫は、妻を東北に呼び出し、殺害して、死体を車のトランクに乗せる。

寒冷地での車のトランクは冷蔵庫代わりになる。

いったん帰宅した栗山は、自家用車で死体を乗せた車に死体を引き取りに行く。

自宅まで運び、物置に放置する。

>泥まみれのウールのツーピースを脱がせ、寝巻きに着がえさせる。

何食わぬ顔をして出張から帰る。数日して発見、警察に届け出る。

「夫の留守中、留守を守った妻」を演出するためのアリバイ工作は、「点と線」を思わせる。

列車と車を使ったトリック、死亡時間は死体の冷却化で解剖検査を狂わせる。

最後に汚れたウールのツーピースは鋏できれぎれに細かくしたあと...晴海の海岸...

清張の小説に登場したいくつかの小道具が出てくる。

しかし、自宅にいるはずの妻を呼び出して殺す、そして、その死体を自宅に戻す。

この点は、新しい発想である。

問題は妻を呼び出す口実である。妻が外出することを目撃されないことである。


2005年04月30日 記

登場人物

栗山 敏夫 岩崎自動車商会勤務、東京本店営業主任。車のセールスマン。34歳
栗山 宗子 栗山敏夫の妻。夫に言わせれば淡泊な性格。29歳
萩野 光治 栗山敏夫の大学の一年後輩。栗山宗子に好意を持っている。
平田巡査 見張り勤務中の山口巡査と相撲の話をしてるとき栗山敏夫が現れる。
山口巡査 栗山敏夫から、妻の死体発見の報告を受ける。平田巡査の同僚
石子主任 イシコ。本庁から来た捜査主任。事件を解決に導く。
高瀬 昌子 宗子の妹。高校教師。形見に「ウールのツーピース」を欲しがるが、解決へのヒントになる。

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