紹介No 020
【閉鎖】1962年 「小説中央公論」
1962年(昭和37年)当時の農村が持つ独特の状況が背景としてある。
心理学者への手紙の形を取って、事件の展開を説明している。
手紙の主「山崎平二」は、被害者とされる兄「久太郎」の「死」に疑問を投げる。
突然行方不明になる兄久太郎。
当日200万円携帯、岩礁に引っかかっていた久太郎のオーバー、崖近くの血痕と血液型の一致。
その付近に落ちていたオーバーのボタン。
状況証拠は、久太郎が殺されて、玄界灘に面した岩礁へ突き落とされた事を物語っている。
新たな目撃情報。古い鳥打帽、汚いマスクの男は2年前からたびたび目撃されている浮浪者。
この男は、昼間は姿を見せず夜になると目撃されていた。
山崎平二の疑問は浮浪者に向けられる。浮浪者は夏と冬に現れている。農閑期にである。
その時期に兄久太郎はよく家を空けていた。
平二の疑問は確信になる。
それは、平二が久太郎の死後、農家の跡取りとなり、久太郎と同じ立場になって確信になるのである。
つまり、完全な自己抹殺を考えた、浮浪者を装った兄久太郎の計画的事件だったのである。
計画的な自己抹殺の方法としては、よくある、自作自演の手口である。
この小説の背景は
>長男という地位は一生その家と土地とにしばりつけられる宿命にあるのです。
>激しい労働と、単調な生活の中に塗り込められているのです。
当時の農村の封建的な状況が理解できないなら、久太郎の動機は理解できないであろう。
最後は、
>農村の生活を都会なみの水準にするように収入を図るという農林省の理想はまだ
>当分は掛け声だけのようです。
時代は1960年代である。
2004年09月18日 記 |
登場人物
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あなた |
心理学者。手紙の差出人山崎平二は、「あなた」と呼びかけている。 |
山崎 平二 |
私。H村百姓。25歳。手紙の差出人、久太郎の弟。久太郎の「死後」農家の跡取 |
山崎 久太郎 |
山崎平二の兄。長男。一年半ばかり前に死亡。当時25歳 |
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