紹介No 013
【情死傍観】1954年 「小説公園」
阿蘇の噴火口の登り口の所で茶店を開いている老人は、自殺者の救助で表彰を受けるほど
自殺者を救っている。
私は、その老人の話をもとに小説を書く。読者から手紙が届く。
小説家の許に届く手紙が話の中心になった作品はけっこうある。小説の許になった話はこうだ。
過去に自殺者を助けた老人は、ある日、その助けた、あの時の女を目にする。
今度の男は、別の男である。老人は助けた当時を思い出す。
「死なしてくれ、二人で死ぬんだ」と叫ぶ男を横にその女の態度が印象的だった。
泪一滴見せない女を老人は忘れることが出来ない。
女が男に向けた、それは冷たい、憎悪を込めた眼つきだった。
別な男と新婚旅行らしい、その女を見た明日、老人は又自殺願望者を見つける。
そして、助けようとする。
しかし、今度は、老人は、「傍観」する。
小説に書かれた「女」が、「山下キヨ子」である。
老人の「傍観」の原因が女であると感じた女、「山下キヨ子」が、「女が男に向けた、それは冷たい、
憎悪を込めた眼つきだった。」理由を、私に手紙でつづる。
いざとなったら自殺を躊躇する男「有田」。
>「死なしてくれ、二人で死ぬんだ」と興奮して、まるで舞台の上での身振りのような、
>彼の動作を見ると心が白々しました。
>男の卑怯と、利己心と、狡猾と、軽薄とを、今は余すところなく見せつけられました。
>いざとなったら強いのは女。男は「利己心と狡猾と軽薄」で.......
>あの日、夫を阿蘇に誘ったのは、一つの告白でもありました。
>私の過去の現場を、夫によく見て貰うためです。
>私自身も再び、あの火口壁の上に立って、自分の亡霊を弔いたかったのです。
と、最後はきれいに終わっている。
自殺が未遂に終わった時の生への執着など、実際の取材で書かれているのだろう、
結末のきれいさ以上に印象に残った。
2003年03月31日 記 |
登場人物
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私 |
清張本人なのか? |
老人 |
阿蘇で茶店を開いている |
山下 キヨ子 |
仮名、私に手紙を送る |
有田 |
仮名、山下キヨ子の元恋人 |
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