紹介作品 No_013  【情死傍観


紹介No 013

【情死傍観】1954年 「小説公園」

以前、私はある雑誌に『傍観』と題した二十枚にも足らぬ小品を発表したことがある......◎蔵書◎松本清張全集 35 或る「小倉日記」伝・短編1●1972年2月20日(初版)より

阿蘇の噴火口の登り口の所で茶店を開いている老人は、自殺者の救助で表彰を受けるほど

自殺者を救っている。

私は、その老人の話をもとに小説を書く。読者から手紙が届く。

小説家の許に届く手紙が話の中心になった作品はけっこうある。小説の許になった話はこうだ。

過去に自殺者を助けた老人は、ある日、その助けた、あの時の女を目にする。

今度の男は、別の男である。老人は助けた当時を思い出す。

「死なしてくれ、二人で死ぬんだ」と叫ぶ男を横にその女の態度が印象的だった。

泪一滴見せない女を老人は忘れることが出来ない。

女が男に向けた、それは冷たい、憎悪を込めた眼つきだった。

別な男と新婚旅行らしい、その女を見た明日、老人は又自殺願望者を見つける。

そして、助けようとする。

しかし、今度は、老人は、「傍観」する。

小説に書かれた「女」が、「山下キヨ子」である。

老人の「傍観」の原因が女であると感じた女、「山下キヨ子」が、「女が男に向けた、それは冷たい、

憎悪を込めた眼つきだった。」理由を、私に手紙でつづる。

いざとなったら自殺を躊躇する男「有田」。

>「死なしてくれ、二人で死ぬんだ」と興奮して、まるで舞台の上での身振りのような、
>彼の動作を見ると心が白々しました。
>男の卑怯と、利己心と、狡猾と、軽薄とを、今は余すところなく見せつけられました。
>いざとなったら強いのは女。男は「利己心と狡猾と軽薄」で.......
>あの日、夫を阿蘇に誘ったのは、一つの告白でもありました。
>私の過去の現場を、夫によく見て貰うためです。
>私自身も再び、あの火口壁の上に立って、自分の亡霊を弔いたかったのです。

と、最後はきれいに終わっている。

自殺が未遂に終わった時の生への執着など、実際の取材で書かれているのだろう、

結末のきれいさ以上に印象に残った。

2003年03月31日 記

登場人物

清張本人なのか?
老人 阿蘇で茶店を開いている
山下 キヨ子 仮名、私に手紙を送る
有田 仮名、山下キヨ子の元恋人

研究室への入り口