紹介No 010
【奇妙な被告】1970年 「オール讀物」
凶器の「薪の割木」、座布団、金庫から紛失した借用書が小道具である。
逮捕された植木は警察でしゃべる。自白である。
被告である植木は公判で自白を強制されたと言う。
もちろん警察は否定する。
むしろ植木がぺらぺらしゃべったという。
のちに植木を調べた警察官は、彼が最初から協力的で「愛想がよかった」と言っている。
国選弁護士として弁護を依頼された原島は、被告から重大な示唆を受ける。
それは、被告が無罪となるための情報である。凶器の薪である。
自白の凶器では考えられない傷跡が鑑定書に書かれている。
座布団が小道具となる。
金を借りたり返したりする客に座布団を出すものなのか?
被害者の性格を知り得た犯人の小さな仕掛けである。
そして紛失した借用書。紛失した借用書は「猪木重夫」名義。
「植木寅夫」と「猪木重夫」、やはり犯人の仕掛けである。
無罪判決を勝ち取った弁護士の原島は、ほぼ一年後法律関係の本を読む。
「無罪判決の事例研究」。
逮捕後に完全無罪を勝ち取るため、目的を持った犯人は自白段階
から巧妙な罠を張る。
密室の取調室での自白を公判で否認し、自白がいかに理不尽で強制されたものか反論する。
その勇気ある態度は裁判官をもだます。
「無罪判決の事例研究」は、被告人植木の犯罪を見事に描いている。
ある意味完全犯罪をもくろむ。
そのため、一度捕まる、そして公に無罪を勝ち取る。
法治社会の盲点をついた犯罪であるが、被告人植木の人間性、特異な性格、卑屈で虚構に
満ちた人格が浮き出ている。犯罪の影にある人間を描く清張作品らしいと言えば、
またおもしろい作品である。
疑問が少々。
法律関係の本である、「無罪判決の事例研究」を裁判官が読む機会はなかったのか。
また、その戒めである、
「名古屋高裁金沢支部 昭29.3.18 高裁刑事特報」を読む機会がなかったのか。
『最後の植木寅夫が交通事故にでも遭って死ねば、「天の摂理」とか「勧善懲悪」の結末になるの
だが実際はそうはゆかないようである。』は、蛇足気味である。
2002年09月20日 記 |
登場人物
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植木 寅夫 |
28歳。被告 |
原島 直己 |
弁護士、植木の国選弁護士 |
山岸 甚兵衛 |
62歳。被害者、植木に殺される。金貸し。 |
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