紹介作品 No_006  たづたづし


紹介No 006

【たづたづし】1963年 「新潮社」

夕闇は路たづたづし月待ちて行かせわが背子その間にも見む。......◎蔵書◎「目の気流」新潮文庫1976年10月30日(6版)より

わたしの記憶に沁み込んだ万葉集の一首はその内容を具体化して身に降りかかる。

わたしの愉しみは長くは続かなかった。通勤途上で知り合った女良子との密かな愉しみは、

良子の突然の告白で地獄に落とされる。

良子には恐喝傷害で服役中の夫がいる。出所の連絡が入る。

平凡でも順調な人生が闇に包まれる。

自分の身勝手から良子を殺す決意を固める。信州を舞台に殺人行が始まる。

殺したはずの良子が蘇る。記憶をなくして生きていたのだ。

わたしは、記憶喪失の良子に再会し再び殺害するつもりが

「新しい良子の魅力」に負けて女を捨てられなくなる。

突然失踪する良子。

仕事で来た信州の山中で、男と生活している良子を偶然発見する。

その男は出所した夫、しかも子供もいる。

記憶喪失はよく推理小説に使われる。あまり好きではない。

しかし、清張は記憶喪失の曖昧さを小説の結末に利用している。

良子はなぜ出所した夫と生活しているのか、子供は誰の子か、記憶は蘇っているのか

結末なき推理小説である。

2001年10月07日 記

登場人物

わたし 32歳。官庁で課長になったばかり。
平井 良子 24歳。わたしの愛人
平井良子の夫 恐喝傷害で服役中

研究室への入り口