今月の紹介作品  【尊厳


紹介No 002

【尊厳】1955年 「小説公園」

宮が御西下になると決まったのは、その年の夏であった。大正天皇のご病気平癒祈願のため、九州各地の神社へお成りになるのである。......◎蔵書◎「遠くからの声」講談社文庫1976年12月15日(2版)より

「宮」のお成りを先導する役の多田警部は、極度の緊張から大失態を犯す。

彼は責任をとって自殺をする。

無念の死を遂げた多田警部の息子は、当事者である「宮」に復讐をする。

復讐をされる「宮」は、何も覚えていない。

「宮」の権威は、天皇制の絶対的権力を背景に想像を絶する緊張を多田警部に与えた。  

彼の緊張は現在にも通じる。

私には、滑稽にさえ映る失態は、極度の緊張をもたらした時代的背景も鋭くついている。

不幸な自殺を遂げた多田警部の息子は、「宮」を恨む。

復讐を遂げようとする息子貞一の恨みは、理不尽なものなのだろうか。

元「宮」の室町氏は何も知らない。

復讐は、される者に覚えがなければ、意味を成さない。

むなしい復讐劇は、没落した元「宮」の室町氏を描くことで救われている。

清張の天皇制に対する態度の片鱗が、うかがえる。

2001年01月31日 記

登場人物

多田警部 元宮の先導に失敗し自殺をする。
多田 貞一 多田警部の息子
室町 元宮

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