松本清張_松川事件判決の瞬間

題名A 松川事件判決の瞬間
読み マツカワジケンハンケツノシュンカン
原題/改題/副題/備考 【重複】〔中央公論社=随想 黒い手帖〕
本の題名 松本清張全集 30 日本の黒い霧【蔵書No0118】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1972/11/20●初版
価格 880
発表雑誌/発表場所 「週刊公論」
作品発表 年月日 1961年(昭和36年)8月21日号
コードNo 19610821-00000000
書き出し 昭和三十六年八月八日、仙台高等裁判所の荘重な古い建物の天井に、四つの扇風機がゆるやかに回っている。この日久しぶりに晴れた空から、夏の陽ざしが窓のステンド・グラスの色を輝かしていた。傍聴席にはかすかな私語と挨拶が交わされている。九時きっかり、正面のドアが開いて門田裁判長が二人の陪席判事を従えて現れた。型のごとく全員起立。しばらくテレビや映画の撮影が行われた。門田裁判長は、最初、顔を赤らめ、ときどき唇のあたりをまげたりする。さすがにすこし上気しているようだった。二人の若い陪審判事は、身動きもしない。カメラのフラッシュが二人の眼鏡を光らせる。よいよ判決になる。カメラ陣退場。眼鏡といえば門田裁判長は書類を見るのに老眼鏡をかけ、被告の名を呼ぶとき、眼鏡をはずして相手の顔をのぞいていた。被告は、呼ばれると無言で一人ずつ立ちあがる。最後の判決を直前にして、後ろから見ても被告たちの姿は緊張している。門田裁判長は咳ばらいを一つしたあと、平静な口調で主文を読み始めた。
作品分類 社会評論
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