松本清張_紙の牙

題名 紙の牙
読み カミノキバ
原題/改題/副題/備考 【重複】〔(株)文藝春秋=松本清張全集37〕
本の題名 黒地の絵/傑作短編集(二)【蔵書No0223】
出版社 (株)新潮社
本のサイズ 文庫(新潮文庫)
初版&購入版.年月日 2010/01/15●59版
価格 700(本体667円)
発表雑誌/発表場所 「日本」
作品発表 年月日 1958年(昭和33年)10月
コードNo 19581000-00000000
書き出し 暗くなると、この温泉町の繁華街の灯が真下に見えた。旅館は丘陵の斜面に建っていて静かである。下の灯のあかりの中から、賑やかな音と声とが這いあがってきそうであった。「ねえ、下に降りてみましょうか?」昌子が云った。硝子戸に顔を密着するようにして外を覗ていた。「そうだな」弾まない声で菅沢圭太郎は云った。ビールを一本飲んだら顔が真っ赤になる男である。メロンを匙ですくいながら、片手では新聞を読んでいた。耳の上に薄い白髪が光っている。「お嫌?」ふりむいたので、菅沢圭太郎が新聞を払いのけて眼をあげた。「降りてもいい」彼は返事したが、人通りの中を歩くのは、あまり気が乗らなかった。漠然とした恐れがある。が、断れないのは、温泉町を昌子と宿着のまま外を歩く魅力であった。「そうしましょう。少しお歩きにならないと毒だわ」旅館に着いたのは三時だったから、四時間の快い時間が経っていた。まだ明日の夕刻までに充実した時間がたたえられている。小さな弛緩は必要かもしれないかった。
作品分類 小説(短編)
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