(原題=三河物語)
題名A | 廃物 |
読み | ハイブツ |
原題/改題/副題/備考 | 【重複】〔(株)光文社=青春の彷徨〕 (原題=三河物語) |
本の題名 | 松本清張全集 35 或る「小倉日記」伝・短編1■【蔵書No0106】 |
出版社 | (株)文藝春秋 |
本のサイズ | A5(普通) |
初版&購入版.年月日 | 1972/2/20●初版 |
価格 | 880 |
発表雑誌/発表場所 | 「文藝」 |
作品発表 年月日 | 1955年(昭和30年)10月号 |
コードNo | 19551000-00000000 |
書き出し | 大久保彦左衛門忠教は八十歳を一期として静かに死の床に横たわっていた。寛永十六年二月のうそ寒い日の午後である。神田駿河台の手広い屋敷の奥まった病室には、見舞いの客達がいくつかの火桶を囲みながら詰めていた。忠教は老いしぼんだ顔に死相を漂わせて半眼を薄く開けたまま眠っていた。さきほど加々爪甚内と二言三言何かいっていたが、疲れたように黙ると、そのまま軽い鼾を立てはじめたのである。顴骨の尖りと、肉のない皮膚を刻んだ皺の乱れと、落ち込んだような口辺のくぼみとが目立った。医者は傍にうずくまったまま、脈拍を取っていた。もう何刻かの後には忠教は息を引取るに違いない。詰めている見舞客といっても、実は臨終に立ち会って最後の訣れにきた人々であった。町家はの者だったら或いは誰かの口からひそかに称名が唱えられたであろう。しかし、無論ここに集まっている者は日頃から気の荒いといわれる旗本ばかりだった。戦国の埃がその身体に残っている男たちであった。 |
作品分類 | 小説(短編/時代) |
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