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松本清張_見送って 隠花の飾り(改題)(第四話)

(原題=清張短編新集)

No_0137

題名 隠花の飾り 第四話 見送って
読み インカノカザリ ダイ03ワ キタノカセン
原題/改題/副題/備考 【清張短編新集】第四話として発表
シリーズ名=隠花の飾り
(原題=清張短編新集) 
●全11話=隠花の飾り(11話)
 1.
足袋(1134)
 2.狗
(改題=愛犬)(1135)
 3
北の火箭(1136)
 4.見送って(1137)
 5.
誤訳(1138)
 6.
百円硬貨(1140)
 7.
お手玉(1051)
 8.
記念に(1140)
 9.
箱根初詣で(1032)
10.
再春(1123)
11.
遺墨(491)
● .
あとがき
本の題名 隠花の飾り【蔵書No0150】
出版社 (株)新潮社
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1979/12/05●初版
価格 800
発表雑誌/発表場所 「小説新潮」
作品発表 年月日 1978年(昭和53年)5月号
コードNo 19780500-00000000
書き出し 一九六八年三月一日の午後三時すぎ、ラオスのビエンチャン空港に旧式な四発のストラトライナー機がカンボジアのプノンペンからきて到着した。煤けた銀色の翼には国際休戦監視委員会の略字ICCの黒文字が大きく付いている。三十六人乗りの小さな胴体は地面に着くと、機首を上にむけて滑り台のように斜めに傾く。ほかに旅客機はなく、空港はひろびろとしたものだった。むこうの端にヤシの木立が横列にならび、高床式の民家の屋根が二、三のぞいていた。空港の片隅にはトンボのような軍用練習機が五つならんでいたが、その一つは損傷していた。兵隊の姿はなかった。ここからも見えるアンナン山脈を越えた向う側では、連日アメリカ空軍のB52爆撃機が爆弾を降らしているというのに、こちらのラオス側は嘘のように静かでのどかであった。
あらすじ感想 蛇足的研究で以下のように書いた。
>「見送って」なら、新婚夫婦を新婚旅行に見送って...かもしれない。
>どちらにしても、具体的すぎるタイトルのため、誰が、誰を見送って、その後の展開が小説の主題だろう。
>新婦は、島村悠紀子。父が島村芳正、A鉄鋼株式会社の次長だったが、二十二年前に死んでいる。

媒酌人の挨拶で、新婦の家庭状況が話される。媒酌人は新郎が勤めている銀行の専務。
新婦は、島村悠紀子。父は島村芳正、二十二年前に死んでいる。
結婚式には出席していないが、島村悠紀子の祖母(芳正の母)は、七十三歳だが元気だ。
悠紀子の祖父は、都内で私立学園を経営している。その自宅が、荻窪の近衛公の荻外荘(テキガイソウ)の近くにある。その祖父も50半ばで死んでいる。
『荻外荘』は、名前が違ったりするが、清張の小説に時々出てくる。(「眼の壁」・「考える葉」)
媒酌人の紹介は、美辞麗句で悠紀子を誉める。
>・・・まことに床しい、馥郁たるお躾によって成長されたのであります。
>謙虚で、理知的で、礼儀正しく...

■島村家の家系




■島村悠紀子の結婚式・披露宴の参加者と欠席者



媒酌人の新郎新婦の紹介が終わり、来賓の挨拶が始まる。来賓挨拶は、悠紀子の父親(芳正)の元同僚でA鉄鋼株式会社の常務、吉岡久雄。
場慣れしている常務は、同じテーブル同席している、筒井、島田、岡村、杉山の名を挙げ、さらに欠席ではあるが内海の名を出してエピソードを語り始める。
吉岡常務の話は、祖父を誉め、その妻である祖母を誉め、母の基子を褒めそやした。言ってみれば、披露宴の席での挨拶の定番とも言えた。
悠紀子は、亡き父の友人に見覚えがなかった。吉岡常務の話で微かに記憶がよみがえってきた程度だった。
吉岡常務は、悠紀子の父が死亡した後も「島村会」なる会をつくり5,6年は島村家で集まりを持った。そのメンバーが先に紹介した面々である。
悠紀子が七つか八つの時だから顔を覚えていないのも無理はなかった。会が自然消滅後も内海と山田は三年ほど顔を出していた。山田は十年前に亡くなっている。
悠紀子の母は、短歌を作っていた。渋谷の女流歌人の結社に参加していた。芳正の死後に本格的に勉強を始めた。
それは姑との関係でも息抜きとして基子の愉しみでもあった。
披露宴の挨拶は基子の短歌仲間の下条政子に移った。顔のまるい、庶民的な感じの五十女だった。
島村家が教育家の家庭であることを引き合いに母親の基子を誉める。
下条政子の祝辞を聞きながら、悠紀子は思った。
---母には忍従という言葉がよくあたっていると悠紀子は思った。
>祖母は以前からやかましい人である。それに母が口応するのを悠紀子は聞いたことがなかった。
>台所に立って忍び泣きしている母、蒲団の中で泪を流している母を幼いとき何度も見たことがあった。
>理由がわからず悠紀子まで泣くと、母はしっかりと彼女を抱きしめて頬ずりした。母の頬は水がかかったように冷たく濡れていた。

披露宴の挨拶の内容とは別の島村家の嫁と姑の関係が、悠紀子の目線で語られている。
基子が島村家から籍を抜いて実家に帰る話が何度も出ていた。もしそうなれば、悠紀子をどうするかの問題に直面する。
母の基子は、島村家に留まった。
悠紀子は、宴席の末席に母と並んで座っている叔母(父の妹)から、その辺りの事情を聞いていた。
嫌な話も聞こえてきた。叔母の連れ合いが言ったらしいのだが、亡き父の財産目当てで島村家に留まっているというのである。

島村基子には、歌友が下条政子のほかに浜島和枝がいたが、今日は所用で出席していない。
結社の主催する吟行があり、信州に一泊の旅行があり参加することになるが、それに賛成しない祖母を悠紀子が説得して参加させたことがあった。
そんなこんなの連絡役は浜島和枝だった。

基子が買い物で留守中に悠紀子は「万葉の旅」という本に挟まれた短歌の紙片を見つける。
四首が書き付けてあった。

吟行は、信州伊那であったはずが、歌は飛行機で大阪に行き、京都を回ったことになっている。
基子の短歌は虚構なのだろうか?写実主義的な歌を詠む基子の歌にしては趣が違っていた。
短歌の内容は「恋の歌」とも読み取れる。「吟行」から帰った母が、上気して顔色がかがやいていたことを悠紀子は思い出した。
悠紀子は、短歌に出てくる「君」の存在を聞くことは出来なかった。

披露宴は進み、お色直しの後再入場した新婦は友人の久野尚子からお祝いの挨拶を受ける。
久野尚子の挨拶は少々翔んでいた。新婦である悠紀子より母の基子を徹底して誉めるのである。それも聞きようによっては、祖母に対する痛烈な皮肉でもあった。
悠紀子は誰もが母の基子を誉めることに苦笑を禁じ得なかった。

披露宴は終わり、新郎新婦は新婚旅行にハワイに出かける予定だった。
親族は「見送り」の為に空港に向かった。

題名の「見送って」は、新郎新婦が新婚旅行旅立つのを空港から見送ることだった。蛇足的研究が当たった。
空港には、結婚式には出席しなかった祖母が来ていた。
それは、母の基子が、孫娘の新婚旅行への旅立ちを見せるための配慮だった。義妹夫婦も知らないことだったので不満を漏らした。
高齢で体調不良で結婚式を欠席したはずの祖母は矍鑠として元気だった。
単純に可愛い孫娘の旅立ちを見せるための配慮で無かったことがすぐに分かる。
島村基子は祖母に
「島村家を去りたいと存じます。私を離縁して下さい」
と、宣言した。忍従の生活から自由に羽ばたく決意の宣言である。
身勝手だと非難する義妹夫婦。その非難をはねつけ、祖母の老後は、実の娘である信子に任せると言い放った。(信子は義妹の名)
鮮やかな反撃である。財産分与も悠紀子には辞退させる。ほぼ四億円近い財産も義妹に自由にどうぞと、グーの音も出させない。

これ以上続けるとネタバレになるので・・・ 予想も出来ない鮮やかな結末へ進む!

キーワードとして「短歌」や、その結社が使われる作品も数作品あるようだ。
①『再春』 【隠花の飾り】第十話」 
②『万葉翡翠』【影の車】第二話
③『たづたづし

------------▼雑感であるが、今年の春頃から、我が家の戸籍を調べている。▼-------------------
それは、3月21日の編集後記でも書いています(沈澱する精神 No113:(編集後記新シリーズ)が、松本清張の父峯太郎に興味を持ち、
触発される感じで戸籍を調べ始めました。
そんな中で、「死後離婚」の事を知りました。私の家系にも「死後離婚」が見られました。
●『死後離婚』とは
※死後離婚で配偶者の親族との縁を一方的に切る!
死後離婚とは、死別した配偶者の血族との間の姻族関係を終了させることをいいます。
配偶者との婚姻関係は死別により解消しますが、配偶者の血族との間の姻族関係は配偶者と死別した後も続いていきます。
つまり、妻の視点からすれば、夫と死別した後も、夫の母親は姑であり続け、夫の父親は舅であり続けるわけです。
この配偶者の血族との間の姻族関係を終了させるのが「死後離婚」です。

『見送って』は、まさに死後離婚の話です。

清張作品に時々、仲介者の役割をする人物が登場する。登場の仕方や役割は様々だが、「見送って」では「浜島和枝」
駅路」:福村よし子/「ゼロの焦点」:鵜原宗太郎/「火の記憶」なども挙げることが出来ると思う。


●【作中作品】
過去にも取り上げたことがあると思うが、作品の中に、小説や詩・短歌・俳句などが登場する場合がある。
小説の中の登場人物が、作品を発表する場合、オリジナリティーが必要であり、当然作家である本人が作中の登場人物になりすまして
書く必要がある。「小説」だと長いのでプロットだけになるのだろうが、詩・短歌・俳句ではそのものズバリを作家が書くのである。
たとえば、登場人物が高名な詩人の場合、その作品は優れた「詩」である必要がある。詩を勉強しているような「素人」に近い登場人物なら
それなりの作品でかまわないであろう。
『見送って』で主人公の島村基子が四首の短歌を書き残す。問題はこの短歌の評価である。
その作品を一首:もみじ葉の色いまだし八瀬の路 紅きは君がみなさけと見し
短歌の結社に入って勉強中なので、ずぶの素人と言うわけでもない。さじ加減が難しい。
①【詩】『高校殺人事件
②【小説】『再春』『理外の理
③【俳句】『巻頭句の女
④【短歌】『見送って
※書き出しに、「過去にも取り上げたことがあると思うが...」と、したが見当たらない。ひょっとして勘違いか????
  再調査して発見した。【「春の血」と「再春」】(蛇足の尾ひれ/日本清張学会(NSG)設立記念・特別テーマ )



2022年11月21日 記
作品分類 小説(短編/シリーズ) 17P×580=9860
検索キーワード 結婚式・披露宴・祝辞・島村会・欠席者・短歌・結社・歌仲間・嫁と姑・死後離婚・新婚旅行・空港・決別宣言・新しい旅立ち
登場人物
島村芳正 基子の夫。二十二年前に死亡。悠紀子が六,七歳の頃。芳正の父は私立学園を経営していた。島村家は教育家の家庭だった。それなりの資産があった。
島村基子 島村芳正の妻。夫を二十二年前に亡くしていた。夫の死後も姑に尽くし、忍従の生活を続けていた。基子は、ある決意をしていて、見送りの空港で実行に移す。
島村悠紀子 島村芳正と基子の子(長女で一人っ子?)。母親の嫁姑の関係で、基子の理解者。銀行員の広瀬信夫と結婚。基子の短歌の内容に疑問を持つ。
祖母(島村芳正の母) 島村基子の姑。悠紀子の祖母。夫は都内で私立学園を経営していた。結婚式は欠席。基子の手配で、新婚旅行に旅立つ二人を見送った。
下条政子  島村基子と渋谷にある短歌の結社の歌仲間。悠紀子の結婚披露宴に出席。浜島和枝も歌仲間。顔の丸い庶民的な女。 
吉岡久雄  A鉄鋼株式会社の常務。島村芳正の死後、筒井・島田・岡村・杉山・内海らと「島村会」を作っていた。
久野尚子  島村悠紀子の友人。特段の断りはないが、学友だろう。披露宴の祝辞は悠紀子の母を誉めながらも、嫁姑の関係の核心を突く鋭いものだった。 
浜島和枝  島村基子と渋谷にある短歌の結社の歌仲間。悠紀子の結婚披露宴に欠席。下条政子も歌仲間。基子の親友で全てを知っているようだ。連絡役?  
内海準一  島村芳正の死後、吉岡・筒井・島田・岡村・杉山らと「島村会」を作っていた。「島村会」が自然消滅しても島村家に出入りしていた。
信子  島村芳正の妹。基子の義妹。夫婦で結婚披露宴に出席。新郎新婦を見送る空港で、基子から島村家からの離縁を知らされる。実母の世話を頼まれる。 
広瀬信夫  銀行員。島村悠紀子の夫になる。舞台は二人の結婚式。

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