松本清張_突風  影の車(第八話)

〔(株)文藝春秋=松本清張全集1(1971/04/20):【影の車】第七話〕

No_1133

※全集から外れる。

題名 突風
読み トップウ
原題/改題/副題/備考 【同姓同名】
●シリーズ名=影の車
●全8話
1.
確証
2.
万葉翡翠
3.
薄化粧の男
4.
潜在光景〔(株)文藝春秋=松本清張全集1〕
  
潜在光景〔(株)新潮社=共犯者〕
  
潜在光景〔(株)角川書店=潜在光景〕
5.
典雅な姉弟〔(株)文藝春秋=松本清張全集1〕
  
典雅な姉弟〔(株)新潮社=共犯者〕
6.
田舎医師
7.
鉢植えを買う女
8.突風
〔中央公論新社:文庫(中公文庫)〕



●中央公論新社=突風
突風



※全集では、「
突風」が未収録
本の題名 突風【蔵書No0037】
出版社 中央公論新社
本のサイズ 文庫(中公文庫)
初版&購入版.年月日 1974/03/10●28版2002/06/25
価格 571+税(5%)
発表雑誌/発表場所 「婦人公論」
作品発表 年月日 1961年(昭和36年)8月号
コードNo 19610800-00000000
書き出し 葉村明子が夫の寿男の浮気に気付いたのは、それがはじまって三月ばかり後だった。寿男はある商事会社の総務部長だが、四十一歳という年齢と、相当な収入と、かなり自由なる交際費とで、浮気を始める条件は揃っている。夫に出張と宴会とが多くなった。時間的にもそれは浮気の一つの素地であった。社用の交際で深夜にかえって来てもおかしくはない。出張の予定が一日遅れても、自然だった。その発見の手懸かりはきわめて平凡なところにあった。たとえば、明子がズボンを始末するとポケットのハンカチが夫のものでなかったり、ワイシャツの衿のところにルージュのあとが付いていたりした。「バーの女だよ」と寿男は明子に云った。「近ごろは、バーの女はサービス過剰でね、おもしろがって客にへばりついてくるんだ」最初はその説明で納得できた。
あらすじ感想 シリーズ作品【影の車】の最後の作品である。八作品中、第八として発表されている。『婦人公論』1961年(昭和36年)1月号から8月号までの連載である。
ただ、『突風』は、全集には収録されていない。

浮気の条件は揃った。
総務部長に出世、四十一歳、相当な収入。自由になる交際費、出張と宴会が続く。
妻の葉村明子は、夫の浮気に気づいた。
帰りが深夜になってきた。出張の予定が一日遅れた。そんなことより、ズボンのポケットから夫のものではないハンカチが出てきた。
ワイシャツにルージュのあとが付いていた。
「バーの女」だよと説明して誤魔化してきた。浮気をする人物にしては脇が甘すぎる。

決定的になったのは、大阪の出張帰りに
夫の鞄のなかから、女物の洗面用具が出てきた。妻の指摘に狼狽する寿男。
狼狽は言い訳を考えていたのだったが、その言い訳が
「こんどの出張は、専務のお供だった。実は、まだ君には云わなかったが、専務にはこれがいたんだ」と小指を立てた。
明子は、半信半疑だったが、寿男は、絶対内緒だと念を押した。

しばらく慎重だった寿男も同じような事を繰り返した。ネクタイを新しくして帰ることもあった。寿男は自分で買うことの無い男だった。
「君は、このごろ、まるで探偵みたいだね」不機嫌に明子を非難する寿男だった。

どう考えても、寿男に分の悪い出来事であり、寿男の責任でもある。
しかし、明子は、追及することで結果として寿男を追い詰めているのではないかと考えた。妻が夫を遊び心から本気に追いやっているのではと考えた。
でも、明子は平気ではいられなかった。

明子は夫の浮気相手の名前を知ることになる。
きっかけは、寿男が不用意に持ち帰ったバーのマッチだった。バーは、「サロン・コパコイン」
下着のシャツの襟元にうすい桃色の口紅が付いているのを発見した。明子はこれで、浮気相手を本気に調べる気になった。

葉村明子と寿男夫婦は、結婚して、十五年。明子は九つ下で子供はいなかった。
明子は、寿男が浮気をしていると確信すると、その追及は激しくなった。夫を問い詰めた。
彼は、返事に詰まると黙りこくってしまうか、家を飛び出していった。

寿男の女の名前は「みどり」といった。
明子は、「サロン・コパコイン」に出かけた。みどりに会いに行ったのだ。
明子は自己紹介してみどりに云った。「いつも、お世話になっております」
みどりは答えた。「奥さんが何のために、わたしに会いに見えたか分かりますわ」
みどりは言った。彼女は、商売上お客にはそれなりのサービスもするし、熱心に誘われればお客さんの誘いを聞くこtもあります

明子は、みどりの言葉を信用した。夫が、みどりに夢中になっているのだ。みどりは商売と割り切っているのだ。
問題は、みどりの所へ明子が尋ねてきたことを喋らないかと言うことだった。
それでなくても、明子と寿男の関係は深刻な状況になりつつあった。

もしかして自分は余計なことをしたかもしれない。
明子は自らの行動が結果として寿男がみどりを追うことになりはしないか、寿男がさらにみどりに執着し事件でも起こさないかと不安になった。
明子は、夫を腫れ物に触るように扱い始めた。それは後ろめたさもあり今まで以上に尽くした。
夫の変化に注意を払い、一挙手一投足を監視し始めた。変化は無かった。彼女が期待した改良も無かった
寿男は相変わらず見え透いた嘘をつきながら、遅く帰ったり、外泊したりした。
明子は、自分の行動の反動に不安を抱きながらも、女から手を切らせる算段を考えるのだった。みどりの名は寿男には言っていない。

明子は私立探偵社に出向いた。その目的は、みどりに他の男がいないか調べることだった。
探偵社はすぐに調査結果を知らせてくれた。明子の想像通りだった。
>「女の人には、他に男がいたんですか?」
>「いたどころの段じゃ有りません。内縁の夫がいるんですよ」

報告書によると
女は、本名芳村和子、二十三歳。内縁の男は、藤田良一。二十四歳、仕事は持たず、ヒモ同様の生活だった。
藤田良一の父は、都内で開業医をしていた。良一は三男。某大中退、バーテンをしている時みどりと知り合った。

葉村明子は、小心者の専業主婦で夫との間を気に病むありふれた存在のような描き方だが、以外に行動力がある。
明子は、みどりのヒモである藤田良一に会う決心をする。
目的は、内縁の夫からみどりに寿男と別れて貰うよう説得を頼むことだった。
みどりが寿男と別れる約束を果たさないのは、みどりにとって寿男が上客であり、ヒモの良一に貢ぐためのいわば金蔓だと考えた。

良一がみどりと暮らす部屋を尋ねる明子。もちろん、良一が一人の時を狙ってだが。
良一に会って明子は好印象を受ける。良一は、開業医の息子で育ちが良かった。
訪問の目的を告げると、良一は、みどりから明子の話は聞いていた。
みどりは、良一に寿男とは手を切ると話していたという。良一は、みどりが自分をも騙し「...太い奴だ。」と立腹して見せた。(胡散臭い。)

藤田良一は、みどりと寿男を別れさせると約束をした。(信じられない)

寿男に変化はなかった。
明子は、もう一度藤田良一に会うことにした。

良一は、みどりが寿男と別れたと思っていたと言った。そして、告白した。
>「お恥ずかしい話です。あの女は、ぼくの手に負えないようです。」
>「それで、あんなに約束したんですが、それが嘘をついていたような結果になって、申し訳ありません」

それは、明子が想像した事でもあった。

これからは、良一の独壇場だった。
芝居がかった展開は、世間知らずの専業主婦を手玉に取り、ジゴロを決め込む男の本領が発揮される。
最後に、明子に手を出した。
>「明子は、突風が身体を吹き付けてきたように感じた」

「突風」は、過ぎ去っていくものだ。
明子と良一がいた部屋にみどりが戻ってきた。

部屋に落ちていた「ピン」から、みどりはすべてを感じ取った。

藤田良一は食わせ者だった。みどりはある意味悲しい女だった。
明子の結論は、「夫の浮気は突風みたいなものですわ。」
じっと待っていれば通り過ぎる。
知らぬは、亭主ばかり。



2022年05月21日 記 
作品分類 小説(短編/シリーズ) 19P×1000=19000
検索キーワード 専業主婦・出世・総務部長・出張・宴会・口紅・洗面道具・バーのホステス・私立探偵社・ヒモ・内縁
登場人物
葉村明子 専業主婦。葉村寿男の妻。貞淑な妻だが意外に行動力がある。世間知らずがあざとなるが、知らぬ波亭主ばかり。
葉村寿夫 明子の夫。総務部長に出世。バーのホステスみどりと浮気。相手のみどりは商売上の付き合い。
芳村和子(みどり) みどり、本名は、芳村和子、二十三歳。藤田良一という内縁の夫がいる。「サロン・コパコイン」のホステス
藤田良一 みどりのヒモで内縁の夫。二十四歳、都内の開業医の三男。某大中退、バーテンをしている時みどりと知り合った。手練手管の男。

突風