松本清張_駅路

No_1125

題名 駅路
読み エキロ
原題/改題/副題/備考 【重複】〔(株)新潮社=(駅路) 傑作集短編(六)〕
本の題名 松本清張全集 37 装飾評伝・短編3【蔵書No0136】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通) 
初版&購入版.年月日 1973/07/20●初版
価格 1200
発表雑誌/発表場所 「サンデー毎日」
作品発表 年月日 1960年(昭和35年)8月7日号
コードNo 19600807-00000000
書き出し 小塚貞一が行方不明になったのは秋の末であった。家を出るときの様子は、簡単な旅行用具を持っただけで、べつに変わったことはなかった。この年の春、小塚貞一は、某銀行営業部長を停年で退職した。その骨休めというか、しばらく東京を離れて遊んで来る。と家人に云い遺している。前から旅行は好きな方だったので、家の者も不審がらなかった。行き先は決まっていず、帰りの日も予定がなかった。いつも彼の流儀だった。家庭には、妻の百合子との間に二人の男の子がある。長男は官庁の役人で、これは去年結婚したばかりで、別に家を持たせていた。だから家には、今年、大学を卒業して或る商事会社に就職した次男が残っているだけであった。所轄署に、小塚貞一の家出人捜査願が妻の百合子から出されたのは、夫が旅行に出かけて三十日ののちだった。  
あらすじ感想 小塚貞一は、定年後傍系会社の重役の椅子も断って退職した。人付き合いも悪くは無かった。家庭内のトラブルも無く家出する原因は何も無かった。
夫婦の仲も悪くなかった。見合い結婚だった。二人の息子たちも立派に成長し、老後も心配ない資産もあった。
高商を出ただけの学歴で二五年銀行を勤め上げ今の地位を気づいたと言える。
「これからは、好きな旅でもして、ゆっくりと遊びたい」旅行とカメラが趣味の小恍蛻黷フ退職の理由でもあった。

いつもなら二週間程度ふらっと旅行に出ることもあったが今回は違っていた。
家出人捜査願いを受けた所轄書では、呼野という古い刑事と北尾という
若い刑事が小怏ニを訪問した。
刑事は、妻の印象を、聡明だが、どこか冷たい感じがした。
妻は、失踪に心当たりがないと云った。
もちろん、女関係は誰もが想像することだが、否定した。
>「.....それはないのでございます。よそさまのご家庭には、たまにいろいろなご事情があると聞いていますが.....」夫人は微笑を浮かべて答えた。
現金の持ち出しについては、「八十万円ばかり持ち出しております」と答えた。大金である。
夫人は、内緒で株をやることもあったので、その金では、と言ったが、旅先に持ち出す金としては奇妙であると刑事は考えた。
刑事は、小恍蛻黷フ略歴の聞き取った。地方の支店から叩き上げで現在の本店勤めになっていた。
広島支店と名古屋支店の支店長をそれぞれ二年務めていた。
呼野刑事は、小怩フ今までの旅行先を尋ねた。
夫人は、アルバムを持ち出し説明した。
連れの北尾刑事もカメラ好きで、アルバムの写真はさすがに趣味としているだけに構図も思かっりしていて、一見して分かった。
福井県の東尋坊から永平寺
岐阜県の下呂温泉付近、大山付近
長野県の木曽福島
京都と奈良。
和歌山県の串本
愛知県の蒲郡
アルバムには撮影時の年月日が書き付けてあった。呼野刑事はそれらを手帳に書き取った。

小恍蛻黷フ周りの状況からは失踪する原因も無い、自殺などの気配も無い。
あるとすれば、夫人関係である。
刑事のしつこい調査から銀行内部で、次の証言をする者があった。
「大村」と言う名前でよく電話が掛かっていた。
この話は、刑事によって夫人に確認された。
「そう言えば、そんな電話がずっと以前に二三度、今度、主人が出発する前に一度かかったように思いますね。
一度は主人が不在のときなので、ご用件を承わっておきまましょうか、と言いますと、いえいずれまたおかけします...
」先方から電話を切った。
夫人は落ち着いて答えた。
刑事は帰りがけに、応接間の「ゴーガン」の絵に眼を遣り、「ゴーガンですね」と声をかけた。「はい、主人が好きで蒐めています」
意味ありげな会話だった。呼野刑事は象徴的に「ゴーガン」を持ち出したが単純では無い。

小恍蛻黷フ失踪は全国に手配された。80万円という大金を持っての失踪で、単純な家出人とは違った対応になった。
呼野刑事は小怩ェ生きている事に確信の様な気持ちを持っていた。直接の上司に意見言って、広島へ出張することになった。
広島支店長時代の捜査である。北尾刑事は、なぜ広島か疑問を持っていた。
呼野刑事は、女性関係とにらんでいた。それは、アルバムの写真からも想像できた。孤独な男の一人旅の場所では無い、温泉地巡りでもあった。
それに、東京では、小怩ノは女の話が全くない。当然以前の勤務地である、名古屋か広島。古くからの付き合いなら広島だろう。
旅行地も東京と広島の中間点での逢瀬を愉しんだのではなかろうか...呼野刑事の意見であり、北尾刑事も納得した。

呼野刑事等の調査は広島支店時代の福村恵子に行き当たる。福村恵子の休暇とアルバムの写真の日付が一致するのだ。
小塚貞一は、福村恵子と約束が出来ていたのだろう。

予想外の展開を見せる。
福村恵子は、可部に住んでいた。
福村恵子はすでに死んでいた。三月くらい前に急病で亡くなっていた。
福村恵子は、独身で、両親も無く身内はいなかった。
葬儀万端は、東京から従妹が来て全て済ましたと言うことだった。
従妹は、福村よし子。東京都大田区××町××番地。
従妹の名前で度々お金が送られていたことが分かった。
呼野刑事は、北尾刑事に言った。
「君、大変なことになったね」北尾刑事は、理解出来ていない。
「...その福村よし子を手配するんだよ」
「小恷≠ヘ、もうこの世に生きていないよ」

福村よし子とその情夫が東京で逮捕された。
福村よし子は、福村恵子の生前、小恍蛻黷ニ恵子の間を仲介していたのだ。
恵子の死を知り、小恍蛻黷フ金が福村恵子に渡ること知っていて、横取りしようと企んだ。
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※広島県:可部


可部線(かべせん)は、広島県広島市西区の横川駅から同市安佐北区の
あき亀山駅に至る西日本旅客鉄道(JR西日本)の鉄道路線(地方交通線)である。



▲▲▲▲▲▲▲▲小説と直接関係ないが▲▲▲▲▲▲▲▲

●【黒い雨】(映画/監督:今村昌平)
広島の「可部」と聞いたとき、映画「黒い雨」を思い出した。
ごく最近DVDを見た。その中で「可部」が登場し印象に残っていた。
それは、 広範囲に降った黒い雨が、可部地域には降らなかった」とされた。
ことが描かれていた。妙に「可部」が気になった。

●黒い雨訴訟(勝訴)
【毎日新聞】2021年7月12日
広島への原爆投下後に降った「黒い雨」を国の援護対象区域外で浴びた住民 ...
広範囲に降った黒い雨は、可部地域には降らなかった」と明記された。

【朝日新聞】2021年7月29日
広島への原爆投下後、放射性物質を含む「黒い雨」を浴びた住民ら84人全員を

被爆者と認め、被爆者健康手帳の交付を命じた広島高裁判決が29日、確定した。










2022年01月21日 記

作品分類 小説(短編) 13P×1000=13000
検索キーワード 銀行・広島支店・名古屋支店・失踪・定年・可部・ゴーガン・愛人・従妹・情夫・アルバム・カメラ・電話・大村・送金
登場人物
小恍蛻 銀行の営業部長を定年退職。旅行好き。妻は百合子、少し冷たい感じの女。長男は官庁の役人、昨年結婚したばかり。
次男は、大卒で商事会社に就職。同居している。円満な家庭生活を送っていた。定年後失踪。三十日後失踪届が出される。
小恤S合子 亭主が失踪しても淡々としている。刑事は冷たい感じを受けていた。
呼野刑事 北尾刑事と共に失踪事件を捜査する。ベテラン刑事らしく的確に推理を働かせる。
北尾刑事 呼野刑事と組んで捜査をする。呼野刑事の示唆に富む推測に感心しながら捜査を進める。
福村恵子 小塚貞一の広島支店時代の愛人。小怩フ定年後を二人で暮らす約束が出来ている。
日陰の女としての暮らしから、抜けだし幸せを夢見ていたが、急死する。
福村よし子  福村恵子の従妹。小塚貞一と福村恵子の仲を仲介していたが、恵子が死んで、金目当てに情夫と小恍蛻黷殺す。 

駅路