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松本清張_陰影 絢爛たる流離(第11話)

NO_096

題名 絢爛たる流離 第十一話 陰影
読み ケンランタルリュリ ダイ11ワ インエイ
原題/改題/副題/備考 ●シリーズ名(連作)=絢爛たる流離
●全12話=全集(全12話)
 1.
土俗玩具
 2.
小町鼓
 3.
百済の草
 4.
走路
 5.
雨の二階
 6.
夕日の城
 7.

 8.
切符
 9.
代筆
10.
安全率
11.陰影
12.消滅
本の題名 松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離【蔵書No0021】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/06/20●初版
価格 800
発表雑誌/発表場所 「婦人公論」
作品発表 年月日 1963年(昭和38年)11月号
コードNo 19631100-00000000
書き出し 男と女が別れる場合、愛情の冷めた方が何をきっかけにして起きるかである。それは、外的条件に影響されることも多い。その条件も著しく外に目立つ場合と、当事者同士の間だけにしか見えないことがある。加久隆平と津神佐保子の別れ方は、そのどちらの場合であろうか、二人だけの間で分かっている点ではあとの場合ともいえるし、条件の大きさからいえば前の場合ともいえる。「コスタリカ」のバーテンの君島二郎が殺されてから、加久隆平は津神佐保子に逢いにゆく積極性を失っていた。佐保子からあまり誘いがかかってこなかった。バーテンの死が二人の間の大きな隙間になったのは事実だった。しかし、この原因はほかの誰も知っていない。あれから二ヵ月が経った。正確には、君島二郎殺しの捜査本部が解散したと新聞に出てから二週間目だった。久しぶりに加久隆平は会社で津神佐保子からの電話を受けた。
 あらすじ感想     前作「安全率」(第十話)からの続編。【絢爛たる流離】では、何作かが続編として登場する。
第一話→第二話   第三話→第四話  第六話→第七話  が、それぞれ二話完結になっている。

蛇足的研究で、続編の登場は、「夕日の城」(第六話)から「灯」(第七話)に続いて2回目である。と、したが、
今回で4回である。とんでもない勘違いでした。

書き出しからも窺える通り、加久隆平は久しぶりに津神佐保子からの電話を受けて何時もの赤坂のホテルで
佐保子と会った。
「ごぶさたいたしました」
佐保子の挨拶は、加久隆平との距離を感じさせるものだった。
「これをお返しに来ましたわ」
佐保子が差し出したのは、三カラットのダイヤの」指輪。隆平が渡したものだ。
「あなたと、お別れしたいんです」の言葉が添えられていた。
「結婚するんです」
加久隆平は、煙草の煙を吐き出しながら
「結構な話だが」と続けた。
或る意味修羅場であるが、淡々と冷静に二人の話は続く。
佐保子の結婚相手は隆平も知っている男らしい。歳は隆平より十五歳ぐらい下たらしい。思わず「若い」と漏らした。
初婚で、隆平との関係も承知の上だという。今の店は人手に渡し、新しく始めるという。
加久隆平は、彼女の「告白」を決意を持って聞かされた。だが此処では結婚相手の名前は出てこない。

加久隆平は、女から返されたダイヤをすぐに売った。売り先は、宝石商の鵜飼忠兵衛商店
鵜飼忠兵衛商店の古くからいる番頭はダイヤを手にして、言った。
「会長、これは珍しいものに出遭いました」目をまるくして言った。
ダイヤの流転と言うか、履歴が番頭の口から語られる。
谷尾喜右衛門(麻布市兵衛町)の娘→【買い戻し】→青山の会社重役→【戦後買い戻し】→平垣富太郎(群馬県の百姓)
ルーペを取り出してダイヤを見ていた番頭が
「会長、縁の角に疵が入りましたよ。よっぽど乱暴なことをやったとみえます。どうしたもんでしょうね?」
「さあ」と答えた加久隆平だが、加久隆平の知っていることだった。
『加久隆平の知っていることだった。』と、さりげなく書いているが、この段階では神(作家)のみぞ知る、ではないのか?
番頭は続けて言った。
加久隆平が買った宝石商に掴まされたのでは?加久が八割程度で言った値段を聞いても
「それでも高うございますよ。決して良心的な宝石屋じゃありません。この疵は、しかし、ちょっとふしぎですね。
ちょうど、素人が滅茶苦茶に力を入れて乱暴にガラスか何かを切ったような疵の具合です」
さすがに専門家の見立てである。
加久隆平は、津神佐保子が、バー「コスタリカ」の破壊されたガラスの中に酔ってソファーに横たわっていたのを目撃していた。
ガラス片から、バーテンが殺害を誰がしたか確信した。だから、その現場を片付けたのは、他ならぬ加久隆平だった。

ダイヤの指輪は半値近くになってしまった。それから三週間、結婚通知はしないと言っていた佐保子だったが
なぜか通知が来た。結婚相手は「芝山達夫」とあった。
「あいつか」
加久隆平は、でっぷり肥えた、赤ら顔の、鼻の太い男が浮かんできた。
加久に対して慇懃であるが敵意のある態度が露骨だったことを覚えている。
芝山は「政治ゴロ」。「夕日の城」(第六話)に登場する
「粟島 重介」も政治ゴロだ。同じような役回りか...
芝山の評判が加久の耳に入る。
「あそこのママもひどい男と一しょになりましたね」
「...あんな精力的な感じですから、玄人にはわりともてるんですね。そして、相当金を搾った挙句には、すぐに女をひどい目に遭わせて棄てるんです。...」
「もともとインチキな男です」
「おい、大丈夫か? あそこのママがコスタリカを人手に渡して、銀座裏に別なバーを持ったそうだが、芝山にしてやられたんじゃないか?」

加久隆平は、津神佐保子のパトロンとして八百万程度注ぎ込んでいた。が、手切れ金のつもりでくれてやる気持ちでいた。
佐保子の新しい店の名は、「ニュー・コスタリカ」。店は人手に渡したが名前は売らなかったようだ。
新しい店はあまり流行っていなかった。
新しく加久の耳に入ってくる話は、津神佐保子の稼ぎを芝山が掠め奪っているらしい。
いくら店が流行っていても、あれではとても持たないだろう...
それらの噂話は、佐保子に未練以上のものを持っていた加久隆平の心を騒がせた。
しかし、別れた決定的理由が暗い素因となり、再び加久を佐保子に向かわせなかった。

事態は突然動き出した。
芝山達夫が加久の会社に現れたのだ。
芝山の目的は、加久に広告料の名目で寄付の要求だった。
加久は断った。
芝山はあっさりと要求を引っ込め、雑談を始めた。佐保子の話題である。
芝山に対峙する加久は「奇妙な親近感」を感じ、今にも兄弟とでも呼ばれそうな感じがした。
さんざんしゃべった挙句、
「では、どうも失礼しました」と、大きな鞄を提げて出て行った。芝山は本当の目的を達成したようだ。

加久は、佐保子が芝山に魅せられたことを自身の経験から導き出していた。
加久が佐保子の暗い秘密を持っていることが、佐保子を芝山のような男に走らせたと思っていた。
>...芝山の性格や生活を全部知っての結婚は、それによって彼女がみずからを牢獄につないだと考えていた。
彼女の「秘密」は、加久に対する愛情の帰結とも考えていた。
>だから、加久は芝山が憎いのである。

事は急展開する。偶然なのか...作家の神のみぞ知る。
バーのホステスが殺される。背中から心臓に達する鋭利な刃物が凶器。それはガラスの尖ったものだった。
この犯人がガラス屋の職人だった。
偶然のようだが...偶然なのだ。
一週間ばかり後に、ダイヤのリングの盗難事件が起きた。
そのダイヤは三カラット、先端に、乱暴にガラスか何かを切った疵があった。
ダイヤの出所、履歴はすぐに判明する。
トントン拍子に事件は解決に向かう。

最後は解決を急ぎすぎたきらいがある。

>だから、加久は芝山が憎いのである。
から、読者としては、新たな事件が発生するかの予断を持ってしまった。



2019年6月21日 記
作品分類 小説(短編/連作) 14P×1000=14000
検索キーワード ガラス切り・政治ゴロ・暗い秘密・ニューコスタリカ・手切れ金・ダイヤの疵・別れ 
登場人物
加久 隆平 東亜鉄鋼の会長。妻子持ち、津神佐保子は愛人。佐保子の秘密を知ることが素因となり、距離が出来る。
芝山 達夫 でっぷり肥えた、赤ら顔の、鼻の太い男。津神佐保子と結婚する。政治ゴロ。悪評の絶えない男。
津神 佐保子 銀座のバー「コスタリカ」の経営者。加久隆平はパトロン。芝山達夫と結婚する。コスタリカを閉じて、ニューコスタリカを再開する。
鵜飼忠兵衛(商店) 宝石商。三カラットのダイヤの流離に事あるごとに関わる。

陰影