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松本清張_代筆 絢爛たる流離(第9話)

NO_094

題名 絢爛たる流離 第九話 代筆
読み ケンランタルリュリ ダイ09ワ ダイヒツ
原題/改題/副題/備考 ●シリーズ名(連作)=絢爛たる流離
●全12話=全集(全12話)
 1.
土俗玩具
 2.
小町鼓
 3.
百済の草
 4.
走路
 5.
雨の二階
 6.
夕日の城
 7.
 8.切符
 
9.代筆
10.
安全率
11.
陰影
12.
消滅
本の題名 松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離【蔵書No0021】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/06/20●初版
価格 800
発表雑誌/発表場所 「婦人公論」
作品発表 年月日 1963年(昭和38年)7月号
コードNo 19630700-00000000
書き出し R市P町
土田三郎(四三)の供述
お訊ねによって申し上げます。私は前職は左官でございます。戦争以来、仕事のほうがさっぱりで、終戦後も商売の目安が立たず、仕方がないので輪タクをはじめました。はじめは駅から客を市内に運んでいましたが、いろいろと縄張りがあって、新しくはじめた者にはうるさく言いますので、とうとう進駐軍の兵隊をキャンプ付近で客待ちするようになりなした。それが今でもつづいているわけでであります。私の家は市内の端なので、この辺はたいそうパンパンが多うございます。私がGIを乗せて連れて行くのは、そのような女のいる家ばかりですから、自然と、そういう部屋貸しをしている商売がどんなに儲かるか、だんだん分かって参りました。  
あらすじ感想    第一部:R市P町 土田三郎(つちださぶろう)(四三)の供述。
第二部:市民病院外科医長宮元博士の解剖所見
第三部:戸倉良夫(三二)の供述。
第四部:ビクター軍曹の供述。(取調依頼のCIDより本人の供述をとってコピーとして送られたもの)
第五部:××県警察本部発行の雑誌『捜査の反省』(部外秘)所載の「刑事座談会」の記事より。※宮本博士談
第六部:一年後の『捜査の反省』記事。※××大工学部東教授の鑑定
第七部:戸倉良夫の自白


小説では特に章立てて記述はされていないが、概ねの流れは上記の通りだ。
土田三郎の前職は左官。戦争以来、仕事はさっぱり。戦後は仕方なく輪タクを始める。
もっぱら、進駐軍の兵隊をキャンプ付近で客待ちしている。客の兵隊は、土田三郎が住んでいる付近に部屋を借りている
女のところに行くのだ。土田は女に部屋を貸すことを思いつく。それが儲け口になることに気づいた。
早速、部屋を改造して、改造と言ってもベニヤ板で仕切っただけだが、四部屋ばかり造った。

土田三郎の内妻は、八田きよ子。料理屋の仲居をしていた女だ。土田の女房が病死した後に引き入れた。
土田は、八田きよ子が水商売の経験から、パンパンと呼ばれる女を置いても上手くやっていけると考えた。
神保なつ子、小池むら子、吉岡知津子の三人が土田の部屋を借りていた。
神保なつ子は、虚栄心が強く、派手好き。GIにキープされながら他に男を作っていた。なつ子の相手はビクターという軍曹。
なつ子はビックと呼んでいた。ビックは本国の家が相当な金持ちで、なつ子に三カラットのダイヤを買い与えていた。
そのダイヤを自慢していたなつ子だが、生来の浮気性で、ビックが軍務でいなくなるとすぐ浮気をはじめていた。
ビックもそれに気づいて女を虐めたようで、女には、生傷や火傷のあとが絶えなかった。
>つづいて戸倉良夫(とくらよしお)のことについて申し上げます
土田三郎の供述が続く。
戸倉良夫は、パンパン相手の代筆をしていた。
土田三郎も信用していたので仕事の世話もしてやった。
女たちはしゃべることは出来ても、字も読めなく、書くことも出来なかった。
戸倉は、若いときに神田の電気学校を卒業して、英語も達者だった。
いずれは金を貯めて、東京に帰る希望を持っていた。
おとなしく、酒も呑まず、煙草も吸わず、道楽もない。色白で、細面。パンパンの女たちにも好意を持たれていた。
そんな戸倉に神保なつ子がかなり熱を上げていた。
土田は神保なつ子に気をつけるよう、戸倉に忠告をしていた。
そんな中、神保なつ子と戸倉良夫が怪しい関係になっていた。
ビックが朝鮮から突然帰ってきたとき、神保なつ子が旅行中だった。
ビックから問い詰められた土田三郎は、神保なつ子を探す羽目になる。
なつ子の旅行は戸倉との逢い引きで、夫婦気取りで旅館に泊まっている所を見つける。
連れ戻された神保なつ子はビックの顔を見ると、その胸に飛びつき、待ち焦がれた恋人にでも逢ったような態度を取った。

供述は佳境に入る。
問題の四月十六日
神保なつ子がパーマに行くと言って行方不明になる。
ビックは、帰ってこないなつ子に怒りだし、ビールの空き瓶を振り回して暴れ出す。
またまた、神保なつ子を捜す羽目になる土田三郎もどこに居るか見当が付かない。なつ子と比較的仲が良かった
小池むら子を呼び出して問い詰めると隠れ家を白状した。土田と小池むら子が神保なつ子に逢いに行き途中で
偶然、戸倉良夫に逢う。戸倉は、隠れ家になつ子が居なかったので、知人の所に立ち寄り、再び隠れ家に戻るところだった。
三人は隠れ家に向かう。
隠れ家で神保なつ子の死体が発見される。

●市民病院外科医長宮元博士の解剖所見
>...異常ニヨッテ本屍ハ窒息死ノ兆候顕著ダガ、死因ニツイテハ確定的ナコトガ断定デキナイ状態デアル。
>死後経過ハ解剖時ヨリ十九時間乃至二十一時間ト推定スル。

●戸倉良夫の供述
神保なつ子との関係を供述する。なつ子とは新しい生活を考えていた。今は喪失感でいっぱいだ。
当日、神保なつ子と逢い引きのために借りた隠れ家に、土田三郎と小池むら子と三人で行くことになる。
その経過を供述するが、なぜが二人を待たせて一人で部屋に入り、神保なつ子の死体を発見する。
三人で隠れ家に行く前に一人で神保なつ子が居るはずの家に行く。なつ子が居なかったと説明。
1時間ほど離れた友人宅へ行ったと説明。
警察から、なつ子窒息死について疑われたが、私にはそんな力はとてもございません。

●ビクター軍曹の供述
なつ子と親しくなったのは一年前から。私にとってすばらしい女だった。
しかし、必ずしもなつ子は、私を愛してくれなかった。私を誤魔化して、他の男と親しくなっていた。
なつ子は金銭に執着していたので、彼女の気を引くため三カラットのダイヤを買ってやった。
なつ子は大変喜んだ、でも彼女は相変わらずだった。私の居ない間に、旅行と称して時々行方不明になっていた。
それに疑問を持ち、彼女を折檻した。時々彼女を殴り、ナイフの刃先をマッチで焼き、彼女の皮膚に小さな火傷を与えた。
当時は、土田のところに前の晩から泊まっていた。
なつ子は、パーマに出かけると言って外出したが、そのまま帰ってこなかった。
土田を詰問したが彼は正直に答えなかった。そこでビールを飲み酩酊したので後のことはよく覚えていない。
その時少々乱暴をしたかも知れない。私の剣幕に恐れてか、土田は、小池むら子となつ子はを捜しに出て行ったようだ。
彼女の死については一切関係が無い。

●××県警察本部発行の雑誌『捜査の反省』(部外秘)所載の「刑事座談会」の記事より。
死因が特定されない中、捜査に行き詰まる。
死亡推定時刻も、各容疑者(とりわけ戸倉良夫)にとって有利に働く。
死体発見の現場に入るときの戸倉良夫の行動も不自然だが決定打にはならない。
被害者の表情は、相当苦悶を呈していた。
一見すれば、窒息死の様子だった。ただ、相当の汗をかいていた。
>とにかく、ふしぎな事件ですね。.....
※宮本博士談
神保なつ子が汗をかいていた事は承知していた。
皮膚には、その痕が顕著でした。
絞殺または扼殺の場合に解剖所見として発汗をみるということはほとんどありません。
死因とは直接的には結びつかないと思います。

●一年後の『捜査の反省』記事。
事件は解決する。
死因は、感電死。
たとえ100ボルトの電流でも、感電状態がくつづくと死に至ることがある。
※注(100ボルトの電流の表現は正しいのか?電流と電圧の関係が正確では無いのでは...)
戸倉良夫の経歴から電気知識を利用したのではないかと推理する。
100ボルトではよほど条件がそろわないと死には至らない。
変圧器の利用を思いつく。一年前に変圧器を売った店の捜査をはじめた。.....これが成功した。

※××大工学部東教授の鑑定
変圧器を二個使い360ボルト程度にすれば、電線を直接皮膚に接触させれば死に至らしめる可能性は十分ある。
十数秒経過すると、身体から電線を放しても、全身的筋肉に激痛を覚え、自由を失わせるだけではなく
意識朦朧となることはよくある。
引き続き圧接すれば筋肉は硬直し心臓麻痺等の症状が表れ致死の可能性が十分である。

●戸倉良夫の自白
>神保なつ子から永久に逃げるため、殺害を計画しました。
140ボルトの変圧器を二個使いました。
電線を彼女の手首に押しつけました。
電線を当てると手首に火傷のような痕が出来ます。でもそれは、なつ子が、ビクターから受けた暴行での火傷があるから
紛らわしく犯跡が残らないと思った。
二回目に隠れ家に行ったとき、はじめに一人で入ったのは、犯行直後に時変圧器を隠すなどしたが、
手落ちがなかったかを確認するためだった。

三題噺的には
1.パンパン
2.火傷サディズ(嗜虐性)
3.感電死

前作(第八話)に続いた、ダイヤの指輪は何処に行ったのだろう?


2019年04月21日 記
作品分類 小説(短編/連作) 15P×1000=15000
検索キーワード 輪タク・パンパン・電気学校・英語・サディズ(嗜虐性)・進駐軍・軍曹・隠れ家・感電死
登場人物
土田 三郎 前職は左官。戦争以来、仕事はさっぱり。戦後は輪タクを始め、片手間に、パンパンに部屋を貸す商売を始める。
戸倉 良夫 三十二歳。となしく、酒も呑まず、煙草も吸わず、道楽もない。色白で、細面。パンパンの女たちにも好意を持たれていた。
神保 なつ子 パンパン。二十四歳。虚栄心が強く、派手好き。GIのビクター軍曹にキープされながら戸倉良夫といい仲になる。
ビクター軍曹  ビック。神保なつ子をキープする。サディズ(嗜虐性)的な変態性癖がある。なつ子に、三カラットのダイヤを買い与える。 
小池 むら子 パンパン、神保なつ子と仲が良い。吉岡知津子とも同僚。土田三郎の家の部屋を借りている。
吉岡 知津子 パンパン、神保なつ子、小池むら子と同僚。初めに名前が出ただけで本篇に直接的関わりは無い。
八田 きよ子 土田三郎の内妻。料理屋の仲居をしていた。土田の女房が病死の後入り込む。

代筆