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松本清張_土俗玩具 絢爛たる流離(第1話)

NO_086

題名 絢爛たる流離 第一話 土俗玩具
読み ケンランタルリュリ ダイ01ワ ドゾクガング
原題/改題/副題/備考 ●シリーズ名(連作)=絢爛たる流離
●全12話=全集(全12話)
 1.土俗玩具
 2.小町鼓
 3.
百済の草
 4.
走路
 5.
雨の二階
 6.
夕日の城
 7.

 8.
切符
 9.
代筆
10.
安全率
11.
陰影
12.
消滅
本の題名 松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離【蔵書No0021】
出版社 (株)文藝春秋
本のサイズ A5(普通)
初版&購入版.年月日 1971/06/20●初版
価格 800
発表雑誌/発表場所 「婦人公論」
作品発表 年月日 1963年(昭和38年)1月号
コードNo 19630100-00000000
書き出し 北九州のR市は、背後地帯の石炭によって成長し、繁栄してきた。元はおっとりした城下町で、前は玄界灘に対い、東西は荒々しい気風の港町がつづいている。R市が奥床しい情緒をとどめていることは、裏町を通ると茶の湯の看板を掲げた庭の家があったり、士族屋敷がならんでいたり、旧藩時代の寺が減りもせず、そのままの数で残っていることでも分かる。谷尾喜右衛門の屋敷は、この静かな一劃に一町四方を占めて建っていた。白壁の塀が長々と平面的につづくのは、由緒ある寺院かとおもわれるくらい壮観であった。大きな門も終日開けられることはない。塀の上には亭々と銀杏の樹が伸びていた。谷尾喜右衛門は土地の人間ではない。若いとき作州津山の山奥から出て来て、裸一貫で今日を叩き上げた。彼についての臆説はいろいろあるが、炭坑の底で裸体を真黒にして鶴嘴を揮っていたことは間違いない。
あらすじ感想    三カラット純白無垢 ファイネスト・ホワイト。丸ダイヤ。プラチナ一匁台リング。
昭和×年三月二十一日、東京市麻布市兵衛町××番地 谷尾喜右衛門氏に金八千六百円ニテ売ル。
喜右衞門氏ニヨレバ、愛娘妙子ニツケサセルトイウ。
値段ノ点ニテ喜右衛門氏ハ少々高イトイウガ、結局、前ノ値デ落着ク。同氏ハ九州ニテ炭鉱ヲ経営スル由。
(宝石商 鵜飼忠兵衛ノ手記ヨリ)


物語は、首記のダイヤの流転を中心に、登場人物の栄枯盛衰を描いている。
全集第2巻の腰巻きには、【ダイヤの運命の饗宴】となっている。
登場人物を紹介しながら書き出してみると.....

谷尾喜右衛門(昭和初年当時、54歳)
 一代で財を成す。経営の才に恵まれたか、谷尾礦業(炭鉱)の社長として成功する。
 会社はG町にあったが、R氏に居を構える。妙子の懇願で、東京にも別宅を構える。
 妻の房江との間に妙子(20歳)・淳子(14歳)という二人の女の子がいる。
谷尾妙子
 谷尾喜右衛門の長女。喜右衛門は妙子を特別にかわいがる。
 東京の学校を卒業後、R市に戻るが、東京の別宅で暮らすようになる。
 男の噂が絶えないうちに婿を取る。婿の名は、村田忠夫。
谷尾淳子
 谷尾喜右衛門の次女。結婚して、谷尾家を離れる。妙子とも疎遠になる。
村田忠夫
 谷尾礦業の使用人。谷尾妙子と結婚する。谷尾喜右衛門に無理矢理結婚させられたとも言える。
 家業の会社(谷尾礦業)の経営には無能で、博多の花柳界で浮き名を流すことと土俗玩具蒐めが趣味の男。 
 妙子との結婚生活は当初から上手くいかなかった。結果として放蕩の限りを尽くし廃人同様になってしまう。

谷尾妙子と村田忠夫の豪華な披露宴は話題に事欠かなかった。
その一つが、妙子の指に燦然と輝ダイヤの指輪であった。
喜右衛門が死んで、代わった当主の忠夫に経営に才は無かった。放漫経営の会社は、不況と相まって破綻することになる。
さらに、喜右衛門の妻の房江が死んだ。そんな中、忠夫の放蕩は、谷尾家の財産を蕩尽してしまう。
噂話は忠夫に同情的であった。妙子は、娘時代の奔放な姿が結婚後落ち着いたわけでは無かった。
使用人を婿として迎えたことにも不満があったのか、亭主を馬鹿にしていた。当然、二人の結婚生活は破綻する。

忠夫の資金の枯渇が運命を激変させる。
博多の花柳界から姿を消し、落籍(ひか)せた女と暮らすが、金の切れ目が縁の切れ目となり、別れる。
趣味の土俗玩具を蒐めることが遊び尽くした男の末路だった。
破綻した夫婦であったが、妙子は忠夫にばあやを一人あてがって近くの家に住まわせた。
妙子と言えば、気ままいっぱいの生活をしていた。妙子の趣味は「能」。忠夫の「土俗玩具」集めと、妙子の「能」は
鬱憤のはけ口という意味では同じなのかも知れない。

川野洋子(川野さん)
 三十八歳の醜い顔をした家政婦(付添婦)。妙子が忠夫につけた付添婦。
 忠夫の「土俗玩具」蒐めの趣味を気持ち悪く思っていた。前半は川野さんで登場、最後にフルネームで...

妙子は、家政婦の川野さんをつけて、忠夫を自宅の二階に引き取る。妙子の家は出入りの激しい騒々しい家であった。
「能」の同好者たちの出入りであったが、そんななかでも、妙子は食事だけは忠夫の元に届けた。

観世和聖
 謡の師匠。五十歳くらいで、でっぷりとして脂ぎった男

観世友吉
 仕舞の師匠。三十歳過ぎ、色の白い役者にしてもよいような華奢な身体つき。

大蔵伍平
 鼓を打つ男。やせてはいるが筋骨逞しい。

忠夫は、口辺に薄ら笑いを浮かべて、階下の声で誰が来ているのか当てるのであった。
それには付添婦の川野さんも感心した。
妙子はそつがなかった。
>「主人はあんなずぼら者ですが、よく面倒みて下さいね」
>川野さんは、そんな、柔らかい声とは逆に何かぞっとするものを感じた。

そして、夫人(妙子)が、夫の食事作りに熱心なのも少々異常に感じた。
さらに、妙子の男関係を想像させる場面を、垣間見ることもあった。

忠夫は近ごろとみに痩せてきた
ステッキを突いて、トボトボと散歩に出た忠夫だが、途中で倒れる。。
忠夫が死んだ。
妙子と忠夫の間には千代子という娘がいた。
棺を前にして
>「お父様がとても好きだった品だからね、ご一しょにお供させたほうがお喜びになるんですよ」
棺には忠夫が蒐をめた「土俗玩具」が納められた。
川野さんは忠夫の死後、下町の大きな羅紗問屋に派遣されていたが、突然見知らぬ男の訪問を受ける。
妙子は麻布警察署に呼び出される。
忠夫は砒素中毒死が疑われていたのだった。警察の捜査が始まっていた。

弁護人(北川先生)
 忠夫殺しの容疑者とされた、妙子の弁護人。「土俗玩具」では名前は出ない。「小町鼓」(2話)になって名前が出る。

妙子が食事に砒素を少しずつ混ぜていたというのが検察側の主張だった。
※砒素は死体が焼かれた後でも骨や灰にも反応が残っていて精密検査をすれば検出される。
川野さんは、味噌汁の味がおかしいと言った忠夫の話をエピソードとして証言する。
>「...奥様は、旦那様が少しでもご飯やおかずを残されると、とてもご機嫌が悪かったんです」

弁護人は、妙子に不利な状況を一変させる。
弁護人は法廷に土俗玩具を持ち込み、自信たっぷりに玩具を指さし、とくとくと説明する。
色鮮やかに発色した玩具の色合いは、顔料に混じった「砒素」の役割だと論じたのである。
そして、その玩具は忠夫の遺体とともに棺に収められ、火葬に付されたのだった。
夫婦の不仲から、妙子が忠夫に砒素を少量ずつ摂らせたとする検事側の主張は論破された事になる。

話は、川野さんの見たままが語られ、「家政婦は見た」的な話の展開であり、噂話が脇を固めた感じで展開するが、
その噂話は、当たらずとも遠からずとして読者を引き込む。

肝心のダイヤの登場は少ない。
妙子の指にダイヤが輝く場面が二回ある。
①オードブルをレストランから取り寄せるため電話をするとき、
②忠夫の葬儀で霊前に合掌する彼女の指



2018年10月21日 記
作品分類 小説(短編/連作) 20P×1000=20000
検索キーワード 谷尾礦業・炭鉱・付添婦・能・鼓・謡・師匠・砒素・弁護士・無罪 ・三カラットのダイヤ・夫殺し  
登場人物
谷尾 喜右衛門 一代で財を成す。谷尾礦業(炭鉱)の社長として成功する。(昭和初年当時、54歳)妙子と淳子の父、妻は房江
谷尾 妙子 谷尾喜右衛門の長女。男の噂が絶えないうちに婿を取る。婿の名は、村田忠夫
谷尾 淳子 谷尾喜右衛門の次女。結婚して、谷尾家を離れる。妙子とも疎遠になる。
村田 忠夫  谷尾礦業の使用人。谷尾妙子と結婚する。土俗玩具蒐めが趣味の男。放蕩の限りを尽くし廃人同様になってしまう。
川野 洋子 三十八歳の醜い顔をした家政婦(付添婦)。妙子が忠夫につけた付添婦。前半は川野さんで登場、最後にフルネームで...
観世 和聖 謡の師匠。五十歳くらいで、でっぷりとして脂ぎった男
観世 友吉 仕舞の師匠。三十歳過ぎ、色の白い役者にしてもよいような華奢な身体つき。
大蔵 伍平  鼓を打つ男。やせてはいるが筋骨逞しい。
弁護人  忠夫殺しの容疑者とされた妙子の弁護人。無罪を勝ち取る。

土俗玩具