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松本清張_春の血

No_215

題名 春の血
読み ハルノチ
原題/改題/副題/備考  
本の題名 延命の負債【蔵書No0017】
出版社 (株)角川書店
本のサイズ 文庫(角川文庫)
初版&購入版.年月日 1987/06/25●初版
価格 380
発表雑誌/発表場所 「文藝春秋」
作品発表 年月日 1958年(昭和33年)1月号
コードNo 19580100-00000000
書き出し 海瀬良子は、友人の中に新原田恵子をもっていた。良子は四十六歳、田恵子は四十八歳であった。良子と妙子の交際は二十年近くもつづいている。それは夫同士からの付き合いに始まった。良子の夫は、この地方の都市で、親から貰った資産を持ち、小さな会社の社長をしていた。田恵子の夫は−−−これは五年ばかり前に死んだが、同じ土地で病院の院長をしていた。知り合いになったのは、社長と院長の時代ではない。三十前だった良子の夫が盲腸炎を起こして入院したとき、剔出した係りの医員が妙子の夫だったのである。それ以来、両人の妻同士の交際は連綿として二十年継続している。もっとも、はじめの十五年間は、さほど親密な接触もなく、一年に三,四回、合うか合わないかぐらいであったが、夫の院長が亡くなってから田恵子がずっと良子に接近してきたのだった。
あらすじ感想 清張が女性を描くとき、多彩な登場人物はなかなか興味ぷかい。

海瀬良子と、友人の新原田恵子は特別な感情を持ってみられていた。

そんな噂を立てられるような、仲に見られていた。

良子の夫から田恵子に縁談が持ち込まれる。

田恵子は元病院長の夫と死に別れた未亡人だった。

「ねえ、あなた、まだあれあるの?」「あるわよ。どうして?」「あがったらしわ、もう」

美しく清楚な未亡人として描かれる田恵子。

反面、再婚相手になる飯尾は、『背が低く、肩が張って、猪首で、髪が少なく、二つの鼻の穴は

遠くからはっきりと見える、厚い下唇』と、容赦ない醜男として登場。

そんな二人の再婚。

「ご心配かけたけどね、あれ、あったのよ」「本当?」

それから1年ばかり、良子は、田恵子の死亡通知を受け取る。死因は子宮筋腫。

「あれ、あったのよ」は、女の春の血ではなく、彼女の生命を奪う命の血だった。

いささか類型的な登場人物だが、題名の「春の血」を未亡人田恵子の女の部分に重ねて描く。

束の間の、女の春を感じる田恵子。

不幸な結末に、少し嫉妬を感じてたであろう良子の、無邪気な友人を失った悲しみ。

ふたりの短い会話から、微妙な心理の変化を読ませる。清張は女心を描かせても抜群だ。


2001年05月24日 記
作品分類 小説(短編) 21P×600=12600
検索キーワード 病院・醜男・再婚相手・縁談・子宮筋腫・死亡通知・嫉妬
登場人物
海瀬 良子 46歳。社長夫人
新原 田恵子 48歳。院長夫人(夫は5年前に死亡、未亡人)
飯尾 炭坑主・田恵子の再婚相手

春の血