研究室_蛇足的研究

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2024年05月21日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_155

(シリーズ作品/紅刷り江戸噂:第五話)

葉村庄兵衛は西国の浪人ということである。何処の生まれで、何藩に仕官していたかは当人が語らないので、はっきりしなかった。●蔵書【松本清張全集24】(無宿人別帳・彩色江戸切絵図/紅刷り江戸噂)文藝春秋社●「小説現代」1967年(昭和42年)11月号〜1967年(昭和42年)12月号
〔小説現代〕
1967年(昭和42年)9月号〜1967年(昭和42年)10月号


葉村庄兵衛は西国の浪人ということである。何処の生まれで、何藩に仕官していたかは当人が語らないので、はっきりしなかった。しかし、訛に九州弁があるので、九州のさる藩に仕えていたであろうことは推察できる。彼が寝泊まりしている神田の旅宿の旅芸人の話では、九州でも南のほうに近いということだった。あるいは豊後あたりの小藩に仕えていたことがあるのかもしれぬ。豊後には小さな大名が多い。前の素性はともかくとして、いまの葉村庄兵衛は女房もいない、子も居ない。年齢はすでに三十路を半ば近く越しているらしい。もっとも、彼の風貌がむさ苦しいので、実際以上に老けてみえるのかもしれなかった。眼が大きく、鼻の頭がひしゃげ、唇が厚い。まる顔で色が浅黒い。このような顔は南国の系統で、情に奔りやすい。女とことを起こしやすく、それで身を誤ることがある。どうじゃ、あんたには思い当たるところがあるじゃろうと、庄兵衛と一緒に広小路に出ている易者が彼に云った。庄兵衛は笑っていた。そうだとも、そうでないとも答えなかった。
葉村庄兵衛は、九州訛りから、豊後あたりの小藩の浪人らしい。年齢は三十路を過ぎているが女房も子供もいない。
庄兵衛の風貌から易者は占って彼に告げた。
>庄兵衛と一緒に広小路に出ている易者が彼に云った。
どうやら、葉村庄兵衛は、易者として商売をしているようだ。
「売卜」(バイボク)と呼ばれた者だろう。たしか落語で浪人が「売卜」で暮らしを立てていると、話の中で聞いたことがある。
「井戸の茶碗」だったと思う。

横道に逸れたが、庄兵衛は、同僚の易者の見立てには、笑って答えなかった。
訳ありの浪人者らしい。


【売卜】 と 【占い】 と 【卜】 と 【占卜】イロイロ言い方があるようで、それぞれ内容が違うようだ。
一般用語集. は. ばいぼく【売卜】. 項目, ばいぼく【売卜】. 意味, 商売として占いをすること。