研究室_蛇足的研究

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2021年08月21日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_120
〔彩色江戸切り絵図・五話〕
蔵の中

十一月も半ばを過ぎると、冷え込みがひどくなる。雪もちらついてくる。「報恩講」が来たから寒いはずだと江戸の者は云った。十一月二十一日から二十八日まで行われる行事である。●蔵書【松本清張全集 24 無宿人別帳・彩色江戸切絵図/紅刷り江戸噂】:「オール讀物」1964年(昭和39年)9月号〜10月号
〔オール讀物〕
1964年(昭和39年)9月号〜10月号



十一月も半ばを過ぎると、冷え込みがひどくなる。雪もちらついてくる。「報恩講」が来たから寒いはずだと江戸の者は云った。十一月二十一日から二十八日まで行われる行事である。「報恩講」は「お講」とか「お七昼夜」などともいって、親鸞聖人の忌日を中心にして真宗各寺では法要を行なう。信徒は寺にも参詣するが、家でも仏壇を飾る。十二月近くともなれば、指の先がかじかんでくる。奈良の「お水取り」は春の兆しとされているが、「報恩講」は冬に入ったことを告げるのである。嘉永二年の十一月二十二日のことだった。日本橋本銀町二丁目に畳表や花筵の問屋で備前屋庄兵衛という店があったが、その夜に一大椿事が突発した。庄兵衛は今年五十四になる。元来が一向宗の信徒だから、この日は午前から浅草の龍玄寺に詣って、遅くまで法要の席に列していた。
日本橋銀町(シロガネチョウ)の畳表や花筵(ハナムシロ)の問屋備前屋庄兵衛。
この店に「一大椿事」が突発した。
大事件なのだろうが、「椿事」とは
1 珍しい出来事。「前代未聞の―」
2 (椿事)思いがけない重大な出来事。一大事。
で、珍しい出来事、滑稽な出来事のイメージが強い。深刻な事件ではないようだ。

浅草龍玄寺も架空の名前。似た名前の寺はあるが、同名なら釧路市に龍玄寺が存在する。


●報恩講
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
報恩講(ほうおんこう)は、浄土真宗の宗祖(開祖)とされる]親鸞(1173年 - 1262年) の祥月命日の前後に、
救主阿弥陀如来並びに宗祖親鸞に対する報恩謝徳のために営まれる法要のこと。
本願寺での報恩講の初夜又は逮夜の法要後に行われる法話及び真宗本廟で行われる門徒の信仰告白に相当する
「感話」に対する僧侶の批評は、特に改悔批判と呼ばれる。