研究室_蛇足的研究

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2021年06月21日


清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!




研究作品 No_117
〔彩色江戸切り絵図・二話〕
大山詣で

日本橋平右衛門町に蝋燭問屋を営む山城屋という店があった。当主は利右衛門といって四十八歳になる。上方から来る蝋燭、線香の類を相当大きく捌いている問屋で、現在の利右衛門は二代目である。●蔵書【松本清張全集 24 無宿人別帳・彩色江戸切絵図/紅刷り江戸噂】:「オール讀物」1964年(昭和39年)3月号〜4月号
〔オール讀物〕
1964年(昭和39年)3月号〜4月号



日本橋平右衛門町に蝋燭問屋を営む山城屋という店があった。当主は利右衛門といって四十八歳になる。上方から来る蝋燭、線香の類を相当大きく捌いている問屋で、現在の利右衛門は二代目である。先代は享保の頃に近江から出て来たが、商売に敏かったので、忽ち販路を拡げた。今の利右衛門はおとなしい男で、多少店の間口を縮めはしたが、それでも結構営業を維持している。天明三年のことであった。利右衛門にはおふでという今年二十五になる女房がいる。年の開きでも分かる通り、おふでは先妻の死亡後入った後妻だった。おふでは総州木更津の漁師の娘だが、或る時、利右衛門が網打ちに行ったとき見初めて家に入れた女だ。これが今から五年前である。彼女は漁師の娘に似合わず整った顔立ちで、汐風に晒された皮膚は健康的で肉づきも緊まっている。江戸者の云う小股の切れ上がった野暮でない女だった。
日本橋平右衛門町
日本橋に平右衛門町が見つからない。
浅草平右衛門町で、東京都台東区浅草橋周辺に平右衛門町が見つかった。

蝋燭問屋などの商売をしている店は沢山あったようだ。


利左衛門は、四十八歳。
女房は、おふで、二十五歳になる。歳が離れているのはおふでは後妻で、房州木更津の漁師の娘。
「江戸者の云う小股の切れ上がった野暮でない女だった。」と言うことは、良い女だったのだ。
前作(大黒屋)同様、年齢がきちんと書き込まれている。
思いつきだが、最初に登場人物の年齢を書き込むことは多いのではないだろうか。
タイトルの、「大山詣り」(おおやままいり/おおやまもうで)は、どこかで聞いた、と思ったら、落語だった。
落語の筋書きと関係あるのだろうか?


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大山詣り(オオヤマモウデ・オオヤママイリ)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
大山詣り(おおやままいり)は古典落語の演目。原話は、狂言の演目の一つである「六人僧」。
主な演者は、五代目古今亭志ん生、六代目三遊亭圓生、八代目春風亭柳枝、三代目古今亭志ん朝など。
★あらすじ【大山詣り(落語散歩260) (dgdg.jp)
 長屋の連中が大山詣りをすることになった。
先達の吉兵衛さんは酒癖が悪い熊五郎が行くといつも喧嘩になるので、今回は長屋の用心のため残ってくれと頼むが、絶対に喧嘩はしないから一緒に行かせてくれという。
 仕方なく吉兵衛さんは喧嘩をして暴れたら丸坊主にするという決め式をして熊さんを大山詣りの講の仲間に入れた。
 両国の垢離場で水垢離を取り、吉兵衛さんを先頭に大きな納め太刀をかついで、いざ大山へと出発だ。好天に恵まれ行きは良い良いで何事もなく、無事に大山に上って下り、江戸に帰れると思った矢先の神奈川宿のなじみの宿で、気が緩んで酔った熊さんは暴れて大立ち回りで、殴られ蹴られた被害者が続出だ。
 吉兵衛さんは、穏便に収めようとするが、殴られた連中はとても収まりがつかない。酔い疲れ、暴れ疲れで二階で大いびきをかいて寝込んでしまった熊さんを寄ってたかってクリクリ坊主にしてしまった。
 翌朝、連中はまだ寝ている熊さんを宿に残して江戸に向かった。知らぬが仏の熊さん、起しにきた女中たちが頭を見て、坊さん坊さんと笑っている。頭をさわって愕然、「やりぁがったな」と、一目散に江戸へ向かった。
 長屋のかみさん連中を集めて、わざと悲痛な顔で、「お山の帰りに寄り道して金沢八景を見物して、舟に乗ったが嵐になって舟は転覆、自分一人だけ浜に打ち上げられて助かった。村人の話では他の連中はみな溺れ死んだという。一刻も早く知らせようと通し駕籠をぶっ飛ばして帰って来た」と、作り話をする。
 かみさん連中は、すっかり信じ込んでワッと泣きだすが、吉兵衛さんのかみさんだけは信じない。「お前の仇名は「ホラ熊」・「千三つの熊」で嘘つき名人の言うことなんか信じちゃあいけない」と冷静だ。熊さん、そこまで言うならと頭に被っていた手拭を取った。見るとつるんつるんの坊主頭だ。
熊さん 「これが証拠、死んだ連中へのせめてもの供養のため頭を丸め坊主になったのだ」と、しみじみと言うと、さすがの吉兵衛さんのかみさんも、「あんなに見栄っ張りの熊さんが丸坊主になった。今の話は本当のことだ」と、ワァワァと泣き崩れ、それにつられて長屋のかみさんたちが大声で泣き始めた。
 計略は大成功でしめたと熊さん、「それほど亭主が恋しければ、尼になって回向をするのが一番」と、丸め込み、とうとうかみさんたちを一人残らずクリクリ坊主にして大満足だ。
 さて、のんびりと旅の思い出話に花を咲かせながら帰ってきた男連中、長屋に入ると念仏の大合唱、おまけに冬瓜舟が着いたような、比丘尼たちの頭がずらり。よく見ると自分たちの女房が尼さんになって熊さんを取り囲んで念仏を唱えている。熊さんにしてやられたと知った連中は怒り出すが、
吉兵衛さん 「はっはっは、これは目出度い、お山は晴天、家に帰ればみんな無事で、お毛が(怪我)なかった」