研究室_蛇足的研究

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2019年3月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_095

 絢爛たる流離:第十話安全率


研究発表=No 095

絢爛たる流離安全率
 〔婦人公論:1963年(昭和38年)10月号〕

東亜鉄鋼会長加久隆平が初めて福島淳一の声を電話で聞いたのは六月十二日の夜だった。それは成城の自宅にかかってきた。ちょうど、会社から帰ったところで、妻も娘もどこかの招待で観劇に呼ばれ留守をしていた。 【絢爛たる流離:安全率】蔵書:松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離:婦人公論 1963年(昭和38年)10月号

東亜鉄鋼会長加久隆平が初めて福島淳一の声を電話で聞いたのは六月十二日の夜だった。それは成城の自宅にかかってきた。ちょうど、会社から帰ったところで、妻も娘もどこかの招待で観劇に呼ばれ留守をしていた。だから、女中の取次ぎで加久隆平は気軽に電話口に出る気持ちになっている。人間いくらか孤独の状態になったとき、知らない人間の声でもつい聞いてみたくなるものらしい。「ぼく、福島と申します。御主人でしょうか?」相手は若々しいが大きな声を出した。「そうですが、あなたはどちらの福島さんですか?」加久隆平は福島という人間には瞬間でも十人ばかり思い当たる。加久はいま東亜鉄鋼の会長となっているが、もともと事業家出身ではなく、官僚上がりの政治家に近かった。

作品の冒頭奇妙な?前文がある。
   「昭和三十五年六月十八日の朝、私はこの原稿を書いている。どういう意味においてでも、この年の、この月の、この日は、日本人   にとって、忘れることのできない日になるであろう。岸内閣が、この日のうちに総辞職し、この日のうちに国会解散を行わない限りは、   新日米安保条約は、たとえ参議院で決議が行われなくとも、十九日午前零時に、自然承認のかたちで国会を通過してしまうのであ   る。五月十九日から現在まで、世論の嵐は、日一日と高まる一方であった。デモに参加する人々の数も、ふえる一方であった。デモ   には明らかな行過ぎもあった。警官にも行過ぎがあった。しかし、今はそれを言うまい。問題の核心は、岸首相が世論に、一切耳を   傾けようとしない態度にあるからだ。アイク訪日取止めの決定も、世論に耳を傾けたからではなく、六月十五日の不祥事に押された   からであった。岸首相よ、あなたは耳がないのあろうか」(一九六〇年六月『アサヒグラフ』田中慎次郎)
※田中慎次郎
  生年月日:1900年7月28日
  死没:1993年7月2日 (92歳)
  田中 慎次郎は、日本のジャーナリスト。朝日新聞社取締役出版局長、総理府原子力委員会参与、
  社団法人日本原子力産業会議参与などを務めた。 Wikipedia

ただ、今日の社会情勢も、似たような感じがする。
岸内閣と安倍内閣の類似性。そして、沖縄県で実施された県民投票の結果に対する安倍首相の態度。
【誠実に耳を傾ける:県民投票の結果は聞き捨てる。土砂投入は止めない。(朝日新聞3月2日夕刊・素粒子)】(2019年3月3日草稿中)。


書き出しの文章からは、この前文の意味するところが分からない。

>人間いくらか孤独の状態になったとき、知らない人間の声でもつい聞いてみたくなるものらしい。
この心理は、理解できるような気もする。
はじめから登場人物がフルネームでご登場だ。加久隆平・福島淳一。
さらに、二名の女性が登場。
亜鉄鋼会長加久隆平の妻と娘。二人は観劇で留守。
加久隆平の肩書きや女中の存在などで、その生活ぶりも想像できる。
【絢爛たる流離】のテーマであるダイヤの行方が、二名の女性の登場ではっきりするか?
電話口の福島淳一は、若々しいが大きな声を出した。とされ、登場人物の年齢構成も
おおよそ見当が付く。
タイトルの「安全率」が機械工学的な専門用語で、東亜鉄鋼会長加久隆平と関連性を勝手に
予見した。
加久隆平は、カグリュウヘイと読む。普通、カクと読むが、わざわざ「カグ」と読ませる意味は...