研究室_蛇足的研究

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2019年3月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_093

 絢爛たる流離:第八話切符


研究発表=No 093

絢爛たる流離切符
 〔婦人公論:1963年(昭和38年)8月号〕

山口県宇部市。 足立二郎は、その町の古物商であった。敗戦から数年経っていた。足立二郎は、大きな古物屋ではないが、目ぼしい古い物は何でも売れた時代で、それなりに商売繁盛をつづけていた。 【絢爛たる流離:切符】蔵書:松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離:婦人公論 1963年(昭和38年)8月号

山口県宇部市。 足立二郎は、その町の古物商であった。敗戦から数年経っていた。足立二郎は、大きな古物屋ではないが、目ぼしい古い物は何でも売れた時代で、それなりに商売繁盛をつづけていた。わざわざ北九州や京阪神からめぼしい物を彼の店に探しにくる同業者もあった。しかし、足立二郎は資金を持たない。彼は同業者のヤミ儲けを聞いて羨ましがってはいたが、元手のない悲しさは手いっぱいの商売で満足するほかはなかった。もっとも、彼にはヤマを張って伸るか反るかの取引をするような冒険心もなければ勇気もなかった。ところで、最近、同業者がやってきては店先に座っている二郎に、「あんたンとこに針金はないのかのう?」と、よく訊くようになった。針金でも、それは二十四番から二十五,六番といった細いものだった。はじめは、どのような目的でそれが探されているのか分からなかったが、あんまり業者が同じ品物を求めにくるので、その一人に訊いてみた。

足立二郎は、古物商。
前作の「夕日の城」(6話)・「灯」(7話)に登場する、田辺澄子の父も古物商。
時代もそう変わらない時期だと思う。「目ぼしい古い物は何でも売れた時代...」
針金が商売になるのだろう。
舞台が古物商の店先からなので、前作からの続とも感じさせる。
タイトルが「切符」で、このシリーズ(絢爛たる流離)では必ずタイトルが具体的意味を持って登場する。
抽象的な意味での「切符」は考えづらい。
「切符」といえば、電車の切符を思い浮かべるが、他にもありそうだ。
「切符」は、切符そのものが重要な役目を果たすのだろう。