研究室_蛇足的研究

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2019年1月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_091

 絢爛たる流離:第六話夕日の城


研究発表=No 091

絢爛たる流離夕日の城
 〔婦人公論:1963年(昭和38年)6月号〕

山辺澄子にその縁談があったのは、秋の半ばだった。澄子の父親は、本郷の裏町で古物屋をしている。ひと頃は、終戦直後の物資不足で、古道具も品物さえあれば面白いくらい儲かった。 【絢爛たる流離:夕日の城】蔵書:松本清張全集 2 眼の壁・絢爛たる流離:婦人公論 1963年(昭和38年)6月号

山辺澄子にその縁談があったのは、秋の半ばだった。澄子の父親は、本郷の裏町で古物屋をしている。ひと頃は、終戦直後の物資不足で、古道具も品物さえあれば面白いくらい儲かった。それで多少金が出来て、父親のかねての念願だった骨董を扱うようになった。父親は自分では骨董商と言っている。店の横に小さな飾窓を取り付け、薄縁を敷いて、その上に古い皿や壺、刀などを並べ、ひとかどの骨董商の店の構えを造った。澄子はある会社の事務員をしていたが、二十五歳になっていた。それまで縁談はあったが、どういうものか、まとまらなかった。彼女の過去に恋愛らしいこともないではなかったが、これも結婚までには進まなかった。その縁談を持ち込んできたのは粟島重介といって、戦後に一度代議士になった男である。今では京橋に「粟島政治研究所」という看板を掲げている。

三カラット純白無垢 ファイネスト・ホワイト。丸ダイヤ。プラチナ一匁台リング。
昭和二十×年三月十五日、同業光輪堂ヨリ買取ル。シカシシテ、コノ宝石ハ昭和十×年麻布市兵衛町××番地谷尾妙子の妹淳子ヨリ買取ルモノヲ、1ヵ月後、青山高樹町大野木保道氏ニ売リタルモノ。余ノ手帳ヲ見レバ、同氏ハ朝ニ赴ク愛娘ノ結婚記念ニ与エタコトニナッテイル。イカナルメグリアワセカ、コノ同ジ品ヲ同業者光輪堂ヨリ見セラレタトキ、余ハ忽チコレヲ言イ値ニテ買取ル決心ヲシタ。
十一月十八日 コレヲ群馬県××町ノ農業平垣富太郎氏ニ売ル。コノ仲介ハ中央区京橋××番地粟島政治経済研究所所長粟島重介氏ニヨル。
(宝石商 鵜飼忠兵衛ノ手記ヨリ)

終戦直後の東京本郷。骨董商を営む父を持つ山辺澄子、二十五歳、会社の事務員。
澄子について、外見的描写が無い。
物資不足で父の古物商は、面白いように儲かっていたらしい。
ダイヤモンドは、どうやら山辺澄子に渡る運命なのか?
羽振りの良い、自称、骨董商の父が手に入れるようだ。
粟島重介と名乗り「粟島政治研究所」なる事務所を持つ男から縁談が持ち込まれる。
粟島という、一度代議士になった男がうさんくさい。
その男の持ち込む「縁談」が怪しい。
話のキーワードは出そろった感がある。
骨董商・政治研究所・縁談・粟島重介

忽(タチマチ)