研究室_蛇足的研究

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2017年11月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_081

 【凶器


研究発表=No 081

凶器 〔週刊朝日 1959年(昭和34年)12月6日号〜12月27日号〕

田圃には、霜が雪のように降りていた。平野の果ては、朝霧で白くぼやけている。昼間の晴れた時でも、青い色が淡いくらい山は遠かった。××平野と九州の地図に名前のある広い沃野であった。 【松本清張全集 4 黒い画集】より

田圃には、霜が雪のように降りていた。平野の果ては、朝霧で白くぼやけている。昼間の晴れた時でも、青い色が淡いくらい山は遠かった。××平野と九州の地図に名前のある広い沃野であった。冬の午前七時といえば、陽がまだ霧の上に出ない蒼白い朝である。切株だけの田の面の水に薄い氷が張っていた。畦道ではないが、それを少し広げたくらいの小径を、近くの農家の夫婦者が白い息を吐きながら歩いていた。径の上に落ちた縄ぎれにも、小石にも、霜がつもっている。「あんた」女房が、何かを見つけたような声になって、急に先を歩いていく亭主に言った。「あい(あれ)は、何じゃろな?」亭主は、女房の注意にもかかわらず足を進めていた。女房だけが立ち止まったので、間隔が開いた。「あんた、見んしゃい、あいば?」女房は、少し大きな声を出した。「どいや(どれか)?」亭主は、面倒くさそうに女房を振り返った。その女房は、手をあげて指を突き出していた。

                   研究

>××平野と九州の地図に名前のある広い沃野であった。
「沃野」(ヨクヤ):「地味のよく肥えた平野。」

直方平野(遠賀川、福岡県); 福岡平野(那珂川、福岡県); 筑紫平野(筑後川・矢部川、 福岡県・佐賀県); 京都平野(今川・長峡川・祓川・城井川、福岡県); 唐津平野(松浦川・ 玉島川、佐賀県); 諫早平野(本明川・境川・東大川、長崎県) ...



●方言から見る地域
>「あい(あれ)は、何じゃろな?」亭主は、女房の注意にもかかわらず足を進めていた。
>女房だけが立ち止まったので、間隔が開いた。
>「あんた、見んしゃい、あいば?」女房は、少し大きな声を出した。「どいや(どれか)?」

しゃべってみんしゃい 福岡弁。
あい、あいば/ あれ、あれを 長崎弁

農村の田園風景。早朝の散歩か、農作業に向かうのか夫婦の会話は妻の指さす方向に見える
何かによって日常が一変する。
静かな風景とこれから起きるであろう事柄の対比が読者を引きつける。

この夫婦が話の主人公ではなさそうだが、「手をあげて指を突き出していた」とする方向が気になる。