研究室_蛇足的研究

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2015年09月21日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_068

 【或る『小倉日記』伝


研究発表=No 068

【或る『小倉日記』伝】 〔三田文学〕 
1952年(昭和27年)9月号


昭和十五年の秋のある日、詩人K・Mは未知の男から一通の封書をうけとった。差出人は、小倉市博労町二八田上耕作とあった。松本清張全集 35 或る「小倉日記」伝・短編1より

昭和十五年の秋のある日、詩人K・Mは未知の男から一通の封書をうけとった。差出人は、小倉市博労町二八田上耕作とあった。Kは医学博士の本名よりも、耽美的な詩や戯曲、小説、評論などを多くかいていて有名だった。南蛮文化研究でも人に知られ、その芸術は江戸情緒と異国趣味とを抱合した特異なものといわれていた。こうした文人に未知の者から原稿が送られてくることは珍しくない。が、この手紙の主は詩や小説の原稿をみてくれというのではなかった。文意を要約すると、自分は小倉に居住している上から、目下小倉時代の森鴎外の事蹟を調べている。別紙の草稿は、その調査の一部だが、このようなものが価値あるものかどうか、先生にみて頂きたい、というのであった。田上という男は当てずっぽうに手紙を出したのではなく、Kと鴎外との関係を知っての上のことらしかった。

                   研究
K・Mは医学博士で詩人。、小説.評論など多彩な活躍をしていた。南蛮文化の研究家でもあった。
田上耕作はK氏へ手紙に添えて原稿を送る。原稿の価値を問うのである。
K・M氏と鴎外の関係を知っているらしい。
書き出しで概ね内容が理解出来る。
もちろん、鴎外とは森鴎外である。
タイトルも「或る『小倉日記』伝」とあるように、小倉在住の田上耕作の話であろう。

「或る『小倉日記』伝」は芥川賞受賞作品(第28回、1952年下半期)である。ちなみに43歳での受賞。
最近お笑い芸人(ピース)の又吉直樹が、『火花』で第153回芥川賞を受賞した。

第28回芥川賞選考時の坂口安吾氏の批評を紹介しよう。(受賞作品:「或る『小倉日記』伝」について)

●「或る『小倉日記』伝」は、これまた文章甚だ老練、また正確で、静かでもある。
  一見平板の如くでありながら造型力逞しく底に奔放達意の自在さを秘めた文章力であって、
  小倉日記の追跡だからこのように静寂で感傷的だけれども、
  この文章は実は殺人犯人をも追跡しうる自在な力があり……
坂口安吾氏の洞察力に驚かされる。