研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2013年2月10日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_053

 【投影


研究発表=No 053

【投影】 〔講談倶楽部〕 1957年7月号

太市は東京から都落ちした。今まで勤めていた新聞社を、部長と喧嘩して辞めてしまったのだ。 (株)光文社『危険な斜面』●初版1973/07/20より

太市は東京から都落ちした。今まで勤めていた新聞社を、部長と喧嘩して辞めてしまったのだ。
ほかの新聞社に行くのも気がさして、辞めてしまったら、新聞記者ぐらい潰しのきかないものはない、とはじめてわかった。もう東京にいるのも嫌であった。
「おれ、田舎に行くよ。」
と言ったら、頼子は、そう、と言って反対もしなかった。社からもらった退職金のある間に、瀬戸内海のSという都市に移ってきた。別に知人があるわけではない。地図を見たら、海の傍で、好きな釣りができるし、なんとなく住みよさそうだったからだ。しかし、退職金も少なくなると、頼子は心細がってきた。
「ねえ、どうするの?」
と頼子は言うが、こういう土地に来た一種の虚脱感があって、見えすいた生活の行き詰まりも切実にせまってこない。うん、うんと生返事しながら、釣道具をかついで出ていった。

                   研究
瀬戸内海のS市
新聞社を部長と喧嘩してやめた新聞記者、太市
妻がいる。「頼子」
妻がいながら、後先考えずに知人もいない地方都市へ移る太市が、凡人には理解出来ない。
妻、頼子も「そう」と言って付いてきたのだから、ただ者ではない。が、「ねえ、どうするの?」と
変わってしまう。緊張感のない出だしである。
例によってS市を詮索してみる。瀬戸内海だから、岡山、広島、山口だろう。
岡山に瀬戸内市があるが
瀬戸内市は、2004年11月1日に牛窓町、邑久町、長船町が合併してできた。のでちがう。
下関市(山口)は当てはまるが、都落ちにしても西の端過ぎる気がする。
「S」を無視すると尾道付近が考えられる。

※この作品を取り上げたのは、清張作品にしては珍しく幸せな終わり方をするとの記事を見たからである。