研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2007年4月12日

清張作品の書き出し300文字前後で独善的研究!


研究作品 No_034

 【いきものの殻


研究発表=No 034

【いきものの殻】1959年12月 〔別冊文藝春秋〕

タクシーは、門を入って、しばらく砂利道を徐行した。片側の斜面に紅葉が見える。前栽培にも、紅葉がある。......◎蔵書◎延命の負債(角川文庫)(株)角川書店●1976/01/30/5版より

タクシーは、門を入って、しばらく砂利道を徐行した。片側の斜面に紅葉が見える。前栽培にも、紅葉がある。その蔭から、玄関に立て看板のように出された「R物産株式会社社人会会場」の貼紙が見えてきた。白服のボーイが二人、大股で寄ってきて出迎えた。溜まり場には自家用車が夥しくならんでいた。波津良太は、タクシーの運転手に賃金を払って降りるのが恥ずかしくなった。正面に設けられた受付の席から、係りが五,六人、波津の方を見ている。波津は、弱みを見せない足取りで、受付の前に行った。若い人ばかりで、波津が知っている顔は一つも無い。「どちら様ですか?」立派な洋服を着た青年が、丁寧に聞いた。向こうでも波津の顔を識っていない。

研究

>波津良太は、タクシーの運転手に賃金を払って降りるのが恥ずかしくなった。
きっと、みんなハイヤーで来るのだ。と、早合点した。
そのまえに
>溜まり場には自家用車が夥しくならんでいた。
と、書かれていた。自家用車で会場にあらわれるのがステータスだったのだろう。
>「R物産株式会社社人会会場」
「社人会...」とは聞き慣れない。1959年12月の作品である。
キーワードは、「タクシー」
〔「運転手に賃金」(この表現はちょっと気になる)〕・「社人会」・「自家用車」

書き出しのこれだけの文章で、会場の物々しさと対比された、波津良太の立場が
浮き彫りにされている。
>「弱みを見せない足取りで、...」
波津良太は、何の目的でこの会場に来たのだろうか、ある決意が感じられる。