研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2006年6月16日

「清張」作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_030

 【張込み


研究発表=No 030

【張込み】1955年12月 〔小説新潮〕

柚木刑事と下岡刑事とは、横浜から下りに乗った。東京駅から乗車しなかったのは、......◎蔵書◎松本清張全集 35 或る「小倉日記」伝・短編1(株)文藝春秋●1972/2/20/初版より

柚木刑事と下岡刑事とは、横浜から下りに乗った。東京駅から乗車しなかったのは、万一、顔見知りの新聞社の者の眼につくと拙いからであった。列車は横浜を二十一時三十分に出る。二人は一旦自宅に帰り、それぞれ身支度をして、国電京浜線で横浜駅に出て落ち合った。汽車に乗り込んでみると、諦めていた通り、三等車には座席が無く、しかもかなりの混みようである。二人は通路に新聞紙を敷いて尻を下ろして一夜を明かしたが眠れるものではなかった。京都で下岡がやっと座席にありつき、大阪で柚木が腰をかけることが出来た。夜が明け放れて太陽が上り、秋の陽ざしが窓硝子ごしに座席をあたためた。柚木と下岡は、欲もトクもなく眠りこけた。柚木は、岡山や尾道の駅名を夢うつつのうちに聞いたように思ったが、はっきり眼がさめたのは、広島あたりからだった。海の上には日光が弱まり赫くなっていた。

研究

横浜を21時30分、一夜を明かして京都、そして岡山、広島。
いま考えれば、かなりの強行軍である。1955年12月発表の作品である。
おそらく特急列車であろう。三等車の座席も当時を彷彿とさせる。二人の刑事はどこに行くのだろう。
出張旅行であろう二人の刑事の旅は、その旅自体の苦労と、これから待ち受けるであろう苦労が
予見的に書き込まれている。そして、旅の簡単な情景描写である。
混み合う列車、秋の陽ざしが座席を暖める。時期は晩秋であろう。
あとは、タイトルの「張込み」で内容を想像するだけである。