研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2005年3月6日

「清張」作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_024

 【留守宅の事件


研究発表=No 024

【留守宅の事件】1971年 「小説現代」 5月号

交番の巡査は、事件捜査記録の「証人尋問調書」のなかに通報を受けたときのことを述べている。......◎蔵書◎水の肌/留守宅の事件●(株)新潮社●1975/10/15(初版)より

交番の巡査は、事件捜査記録の「証人尋問調書」のなかに通報を受けたときのことを述べている。「問 君は何時から西新井警察署勤務となり、また大師前派出所勤務となったのは何時か。答 私は昭和四十二年九月から西新井警察署勤務を命ぜられて一昨年十一月中旬ごろから大師前派出所詰めとなったのであります。問 本年二月六日、西新井×丁目××番地、栗山敏夫より同人妻宗子が殺害されたと訴え出たのを受けた状況を詳細に述べよ。答 二月六日午後六時半ごろでありました。私は休憩時間に相当しておりましたので、所内の見張所の時計のところに腰掛けて見張勤務中の山口巡査と相撲の話をしておりましたら、一人の男が参りまして、山口巡査に向って『勤めから帰ったら、ぼくの妻が殺されていましたからすぐ来て下さい』と云ったので、山口巡査が『どうして殺されたのか』と訊ねましたら、『家の裏の物置小屋に横たわっている。どうして殺されたのかよくわからないが、とにかく殺されています』と申しました。

研究

題からして「事件」である。捜査記録は事件を無味乾燥に書いている。問題は一人の男である。その一人の男が栗山敏夫。私と山口巡査、そして、栗山敏夫の妻宗子。登場人物はほぼ出そろった感じである。『勤めから帰ったら、ぼくの妻が殺されていましたからすぐ来て下さい』の訴えで事件が始まるのであるが、「殺された」の訴えは、まさに事件である。犯人捜しの典型として最初から登場人物が全部で揃って、さて、「この中で犯人は誰でしょう。」的な書き出しでもある。いつも思うのであるが、この書き出しでは栗山敏夫がどうしても疑われる。しかも、妻が殺されているにしては冷静すぎる。題の「留守宅の事件」は、栗山敏夫の留守中の事件という意味であろう。犯人捜しなのか、また別に小説の主題があるのかまだわからない。