研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2003年12月07日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_016

 【地方紙を買う女


紹介No 016

【地方紙を買う女】1957年 「小説新潮」

潮田芳子は、甲信新聞社にあてて前金を送り、『甲信新聞』の購読を申しこんだ。......◎蔵書◎青春の彷徨「地方紙を買う女」(株)光文社 ●1978/12/20(7版)より

潮田芳子は、甲信新聞社にあてて前金を送り、『甲信新聞』の購読を申しこんだ。この新聞社は東京から準急で二時間半くらいかかるK市にある。その県では有力な新聞らしいが、むろん、この地方紙の販売店は東京にはない。東京で読みたければ、直接購読者として、本社から郵送してもらうほかないのである。金を現金書留めにして送ったのが、二月二十一日であった。そのとき、金と一緒に同封した手紙には、彼女はこう書いた。−−貴紙を購読いたします。購読料を同封します。貴紙連載中の「野盗伝奇」という小説が面白そうですから、読んでみたいと思います。十九日付けの新聞からお送り下さい....。潮田芳子は、その『甲信新聞』を見たことがある。K市の駅前の、うら寂しい飲食店のなかであった。注文の中華そばができあがるまで、給仕女が、粗末な卓の上に置いていってくれたものだ。いかにも地方紙らしい、泥くさい活字の、ひなびた新聞であった。三の面は、この辺の出来事で埋まっていた。五戸を焼いた火事があった。村役場の吏員が六万円の公金を消費した。小学校の分校が新築された。県会議員の母が死んだ。そんなたぐいの記事である。

研究

『甲信新聞』のあるK市は、甲府市であろう。地方紙の連載小説を読むことを目的に、わざわざ購読を申し出る女、潮田芳子。ただ、購読の理由は本筋ではないようだ。連載小説「野盗伝奇」は清張作品に実在する(1956年・西日本スポーツ)。まさに地方紙に連載された作品である。題名通り、地方紙を買う女、潮田芳子が主人公であろう。地方紙の記事の中心は、その地方の様々な出来事である。「五戸を焼いた火事があった。村役場の吏員が六万円の公金を消費した。小学校の分校が新築された。」こんな記事が、地方紙を買う女の目的なのだろうか。「そんなたぐいの記事である。」にこそ、主題があるのであろう。