研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2003年10月13日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_015

 【二冊の同じ本


紹介No 015

【二冊の同じ本】1971年 「週刊朝日カラー別冊[」

話は古書目録のことからはじまる。神田では毎年何回か古書店が共同して開く古本即売会がある。......◎蔵書◎二冊の同じ本 日本推理小説協会編 最新ミステリー選集1〈愛憎編〉(株)光文社 ●1977/09/30(34版)より

話は古書目録のことからはじまる。神田では毎年何回か古書店が共同して開く古本即売会がある。新聞にも取り上げられるくらい評判だが、その会が行われる二週間くらい前には、参加の古書店が顧客先に出品目録を送ってくる。私のところにも語林堂という店から毎回送ってくる。私も本は好きだ。ことに会社で閑な職務に就くようになってからは本を手にする時間が多い。会社は戦前から貿易業務を主体にしていたが、敗戦でいったん駄目になり、分割されたけど、現在は立ち直って繁昌している。私は海外駐在勤務が多かったせいで、外国の地誌など読むが、それだけとは限らない。よくいえば興味の広い方、まあ雑読である。さて送られてきた古書目録に眼を通していると、その中に「欧州殊にロシアに於ける東洋研究史ウエ・バルトリド著・外務省調査部訳」というのに視線が止まった。その下に、注として「書込あり」という活字がある。前の所有者が欄外に文字を書き込んでいるという断りがきである。バルトリドは、1869年ペテルブルグ(現在のレニングラード)に生まれ、東洋史、特に中央アジア、中近東の歴史について多くの論文を残しているロシア東洋学の重鎮である。

研究

「欧州殊にロシアに於ける東洋研究史ウエ・バルトリド著・外務省調査部訳」というのに視線が止まった。その下に、注として「書込あり」という活字がある。....小説の軸は、この70文字程度で決まっている。1869年ペテルブルグ(現在のレニングラード)の記述が懐かしいのも時代の流れか?。いつもながら書き出しの中に、さり気なく小説の骨が埋められている。いきなり事件から始まる場合もあれば、書き出しの300文字程度では主題に全くふれない場合もある。オーソドックスなスタイルであろう今回の書き出しは、好き嫌いで言えば、好きな方である。完読した結果からの感想になるため、どうしても先読みになるが、題名との関連から、ある予感を読者に提供しながら読ませる効果があるように思える。