研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2003年07月07日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


研究作品 No_014

 【怖妻の棺


紹介No 014

【怖妻の棺】1957年 「週刊朝日別冊」

非番なので遅く起きた戸村兵馬は、朝飯とも昼飯ともつかぬ食膳を終わって庭に下りた。秋のおだやかな陽が、うす紅くなった葉の上に溜まっている。......◎蔵書◎松本清張全集 37 装飾評伝・短編3●1973年2月20日(初版)より

非番なので遅く起きた戸村兵馬は、朝飯とも昼飯ともつかぬ食膳を終わって庭に下りた。秋のおだやかな陽が、うす紅くなった葉の上に溜まっている。塀際の隅に桐の実がこぼれていた。昨夜の酒で頭が少し重かった。兵馬が庭下駄を突っかけた時、人が訪ねてきたことを告げた。「誰だな?」「香月様からのお使いでございます」「弥右衛門の」兵馬は首を傾げた。滅多にないことでである。何だろう。玄関に出て見ると、見知りの香月の用人が待っていた。「まあ上れ、といいたいが急用だろう、何だな?」袴の上に両手を滑らせて挨拶する用人に、兵馬は懐手をして訊いた。「奥様からのお使いで参りました。昨夜、旦那様がこちらに伺うと申されて、未だにお帰りがありませぬ。もしや、御酒を過ごされて、こちらさまにご迷惑をおかけしているのではないか、伺って参れとのことでございます」そうか、といったが兵馬はしばらく返事をしなかった。

研究

兵馬にとっては穏やかな休日の午前である。庭の情景をゆっくりと伝える描写はさすがである。「誰だな?」「香月様からのお使いでございます」そして、弥右衛門の外泊が知らされる。弥右衛門の妻からの使いで来た使者に咄嗟の返事が出来ない兵馬。怖妻の棺とは何か?。外泊の朝すぐに使者を向ける弥右衛門の妻はよくできた妻なのか?咄嗟に返事をしなかったのか、出来なかったのか、兵馬の胸の内は、弥右衛門の恐妻振りと関係がありそうだ。「怖妻」は広辞苑にもない。恐怖の妻なのか、どうやら怖妻は弥右衛門の妻らしい。