研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2001年03月01日

清張の作品の書き出し300文字前後で独善的研究!。


今月の研究作品

 【ひとり旅


紹介No 003

【ひとり旅】1954年 「別冊文藝春秋」

田部正一は早くから、遠い旅をしたいと思い、一種の憧れをもっていたが、貧乏でそんな余裕がなかった。......◎蔵書◎「延命の負債」角川文庫1987年6月25日(初版)より

田部正一は早くから、遠い旅をしたいと思い、一種の憧れをもっていたが、貧乏でそんな余裕がなかった。出来ないと分かっていたから、憧れていたのだろう。小学校の時は地理が好きであった。何県の何町の人口はいくらで、産物はこれこれ、というような教科書の普通無味乾燥な文句も、その遠い、見も知らぬ町の風景や土地の生活まで空想できて楽しかった。九州に生まれ、そこから一歩も出たことのない少年の頃の田部は、地図の上に、例えば、五城目、鹿渡、能代などという東北の地名を見ると、寒風に吹きさらされた陰鬱な町なみや、北の涯につづく荒涼とした道など眼に泛び、その道をとぼとぼ歩いている自分の姿を想像して、うら淋しい思慕の情さえ起した。

研究

田部正一は、松本清張そのもののようだ。旅への憧れは、清張の願望だったのかもしれない。主人公であろう田部を最初の数行で描ききっている。田部の将来を暗示している。「例えば、五城目、鹿渡、能代などという東北の地名を見ると、寒風に吹きさらされた陰鬱な町なみや、........」清張の小説に登場する多くの町は名も知れない地方都市が多い。華やかな大都市よりも似合っている。