研究室_蛇足的研究

紹介作品・研究室の倉庫

2000年12月31日 

清張の作品の書き出し300文字内で独善的研究!。


今月の紹介作品  【神と野獣の日


 

紹介No 001

【神と野獣の日】1963年 「女性自身」

早春の暖かい日である。ある広告代理業の社員が、日比谷公園横の祝田橋に車でさしかかって、信号待ちの停車をしていた。......◎蔵書◎「神と野獣の日」角川文庫1975年1月30日(5版)より

早春の暖かい日である。ある広告代理業の社員が、日比谷公園横の祝田橋に車でさしかかって、信号待ちの停車をしていた。この交差点は、東京随一の混雑場所になっている。彼は、午後二時に製薬会社の広報部に行く約束になっているので、時間を気にしていた。腕時計は一時三十二分になっている。先方は忙しい人なので、約束の時間までに到着しないと留守になる。きょうは相当大きなスペースの注文が取れるので、なんとしてでも約束の時間内には着きたかった。しかし、蜿蜿とつづいた車は、いっこうに動き出そうとはしない。彼の車は、まだ日比谷公園の入り口近くにきている程度だった。運転手に聞くと、五回ぐらい信号が変わらないとだめだろう、という。運転手もあきらめ顔で、ポケットからタバコを出して吸っていた。

研究

40年近く昔の作品である。日比谷の交差点は今も変わりない。「広告代理業の社員」は、これから起こるであろう出来事に無防備である。当然である。何気ない日常が映画の一場面のようにはじまっている。静かな滑り出しの中に何かを予感させるものがある。景色としての背景描写、登場する人間の心理描写。映像である。