紹介作品 No_124  【考える葉】


 

紹介作品No 124

【考える葉 〔【週刊読売】1960年(昭和35年)6月3日号~1961年(昭和36年)2月19日号
その男は銀座を歩いていた。彼は、三十五六ぐらいに見えた。大きな男で、体格がいい。薄ら寒い宵だが、オーバーも何もなかった。くたびれた洋服を着、踵の減った靴をはいていた。ネクタイは手垢で光り、よじれていた。だが、彼は、伸びた髪をもつらせ、昂然と歩いていた。すれ違った者が思わず顔をしかめたのは、その男の吐く息がひどく酒臭かったからだ。夜の八時ごろというと、銀座は人の出の盛りである。四丁目の交差点から新橋側に歩き、さらに最初の区画を右にはいると、高価な商品を売ることで名の高い商店街がある。どの店もしゃれた商品をならべ、通行人の眼をウィンドーの前にひいていた。品もいいが、溜息が出るほど高い正札がついいていた。この通りをどこでもいいが、左に曲がっても右に曲がっても、夜の銀座の中ではいちばん人の歩きが多かった。●蔵書【考える葉の飾り】新書(KAPPANOVELS):((株)光文社●「週刊読売」1960年(昭和35年)6月3日号~1961年(昭和36年)2月19日号

清張作品としては異色の書き出しである。
書き出し300文字程度の部分だけでは無い。
男の行動が型破りなのだ。
動機や行動の意味・目的、それに名前の記述もない。
銀座で、通りすがりの女にキスをして、ショウウインドーのガラスを持っていたステッキでたたき割ったあげくに、警察に捉えられた。
>「彼は、三十五六ぐらいに見えた。大きな男で、体格がいい。」


弁解録取書】によると
「被疑者、住所不定、無職、井上代造。大正十三年四月二日生(三十五歳)」
本職は、昭和三十五年三月二十五日午後十時四十分ごろ、警視庁××警察署において、右の者に対し犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することが出来る
旨を告げた上、弁解の機会を与えたところ任意左のとおり供述した。
一.私は三月二十五日午後九時ごろ、銀座××丁目付近において、通行中の一婦人に対し抱きつき乱暴を働いたこと、および、銀座××番地S商店陳列窓
ガラス一枚を樫材ステッキにて破壊毀損した事実を認める。これはかねてより秘かに計画していたことで、その動機は、贅沢な服装をしていた婦人や、高価な品物を陳列している商店に対して憎悪の念を抱いていたからである。」


この【弁解録取書】で事件の概要は理解出来る。ただし、すぐに捕まるであろう行為を公衆の面前で犯したことについては、何も白状していない。

留置場送りである。
取り調べの段階からふてぶてしい態度であったが、留置場内でも同じである。
同房者の、房内の順序(上下関係)は、犯した犯罪の内容や、最初の態度が肝心で、それで決まる感じがする。 
井上代造に声をかけた男は、留置されて二週間になる。婦女誘拐犯
隣の男は、と顎でしゃくって聞いた。
空き巣の常習犯。「えらくおっさんじゃないか...」井上は言った。
その隣はなんだ?
「傷害ではいってきた。」婦女誘拐男が答えた。
井上は、肩をおこして、首を伸ばした。
「若い、いったい、いくつぐらいだな?」
「二十六というとる」
もう完全に序列が出来てしまっている。

空き巣男は五十二、三歳。前科三犯。生気の無い男だった。
もう一人の傷害犯の男は、同房の者との話には加わらなく、寡黙で表情一つ変えなかった。名前は崎津弘吉
井上は崎津に興味を示した。親兄弟もいない、山梨出身で身延山の裏側の落石(オチイシ)村出身。彼に釈放されたら家に訪ねてくるように熱心に誘った。
偶然に同房になっただけなのだが、彼に会うことが目的だったような熱心な誘いだった。

井上代造は、釈放された。犯した犯罪が親告罪で、被害者が告訴しないらしい。
釈放された井上代造は、タクシーで青山の自宅に戻った。
自宅には美沙子という妹がいた。妹にタクシー代を払わせ、自分は一寝入りした。
三十分ばかり寝る起きだし、「金はあるかい。」と聞き、「まだ、ありますわ。」と答える妹に、一万円札を二枚出した。金には不自由していないようだ。
井上代造は、再び出かけた。
東京では北の方にある区。そこは、武蔵野の名残がある雑木林が至る所に残ってい。元総理大臣をやった人の別荘で『臨華荘』といった。
タクシーは井上の指示で、門の中に入った。
女中の出迎えを受ける。「これはいるかい?」井上は親指を立てた。「はい、いらしゃいます」。先客がいた。女中に聞くと「露石先生です。」
この邸宅の主は、二十七,八歳小太りの血色の良い青年。板倉彰英と言った。板倉鉱業株式会社の社長。
先客の「露石先生」は、板倉彰英の書道の先生をしている、村田露石という書家だった。
井上代造は、社長であるが、年下の板倉彰英に対して如才なく丁寧な口の利き方だった。露石に対しても如才なかった。板倉は「井上君」と呼んだ。

村田露石が、帰った後、二人は、内密な話になった。
>「ところで君の報告をさっそく、聞こうか。こないだからも頼んだこよだな。」
>「それです。千夜、例のことを実行しましたよ。」

銀座の事件のことらしい。計画的で、目的が有ったのだ。(ここで、計画性と留置場で出逢った崎津弘吉との偶然の出会いが気になる
銀座の事件は囮の事件と言える。小説の全貌は全く見えない。井上と板倉の関係も見当が付かない。
板倉は何者なのだろうか、若くして財をなし、さらにのし上がろうとしている野心家然としている。

岩村さんに会いに行くと板倉は出かけるが、ついでに井上を送って行くと二人は車中の人となる。車はキャデラック、当時としては超高級車。
道行く人が羨望のまなざしで見る。
岩村さんとは、R産業株式会社、岩村修平のことだ。R産業の本社は丸の内、R会館という新しいビルだった。
車中の二人の会話は、謎めいていて、胡散臭い、よからぬ相談という感じだが、板倉彰英がイニシアチブを取っている。

板倉は、井上を降ろすと、運転手に丸の内に急ぐように指示した。
岩村修平のR産業は、既成の財閥の間隙を突いて一代でのしあがってきた新興コンツェルンで、その実行力は彼の能力によるものであった。
勿論優秀な取り巻きがいたこともあったが、その中に板倉彰英が加わってきたのだ。


物語としては、大きく動き出す。
東京から西の方、雑木林と田園の間に流れている川、上流は武蔵野台地からの湧き水が源流だがここらではかなりの川幅になっている。千馬川といった。
死体が発見された。心臓部を刺され、鋭利な刃物で乳のあたりを抉られていた。三十二,三歳くらいの工員風の男。
捜査の中で貴重な遺留品が見つかった。ズボンの折り返しに赤土と黒っぽい石の屑。赤土は関東ローム層で現場付近のものだった。
黒い石屑は二種類有り、軽石と安山岩。軽石は赤土とほぼ同じ地域に有る。安山岩は武蔵野台地にはない。那須、信州、甲州など火山系の地帯に多い。
捜査が進む中で女がいたことが分かった。殺された男は、S町の旅館に泊まっていた。捜査が進む中で女がいたことが分かった。
女は青木みよ子。二十四歳、S町のバーで働いている。女は宿が世話した、商売女だった。 (捜査は続く

話は別ルートでも進んでいく。書家の村田露石は、硯の買い付けのために甲府に向かった。
駅では三十格好の男が迎えに来ていた。藤森と言った。甲府の硯屋だった。
これから、身延駅に向かい、そこからハイヤーで落石に行くことになった。
>「なに、ハイヤー?」露石老人は首を横に振った。
>「藤森さんそりゃ、もったいない。バスはありませんか?」

藤森はバスは一日二往復しかありません。とてもまにあいませんと言われ了解した。
が、なぜかこの会話が気になった。ハイヤー代は誰が出すのか...露石は細かい男だ...とか余計なことを考えた。
身延駅に到着してハイヤーに乗り込む二人。
そのとき露石は、藤森に聞いた。「ところで藤森さん、ハイヤー代はいくらですな?」藤森側の負担と聞いて安心した。
車は、富士川から早川の支流に沿ってどこまでも山峡に進む。車一台がやっと通れる道を進みようやく落石の部落に着いた
硯屋へ案内される露石。見すぼらしい屋根の低い家、藤森が先に入り声をかける。老婆が出てくる。「...仙さんはいるかい?」
老婆に案内されて、仙さんと呼ばれる硯職人の作業場に入る。
私が崎津仙太郎です。仙さんは村田露石に名乗った。
役者が出そろい始めた。この落石の地は硯の原石が取れることで有名だった。今ではその原石も殆ど取れなかった。
村田露石は、ある資産家に硯をプレゼントするので腕によりを掛けた品を造ってくれと頼む。藤森も大喜びで崎津仙太郎に注文する。
そんな商談をしているさなか、小屋の横から足音が聞こえた。

おう、弘吉さんか。
藤森は、露石に「弘吉」を仙太郎の従弟だと紹介した。「弘吉」こそ、井上代造が留置場で一緒になり声をかけた「崎津弘吉」であった。
弘吉の素性が明かされる。元は硯屋の倅、大学を中退、硯屋も左前になり、両親も死んだ。従兄の仙太郎に厄介になっている。
弘吉を変わった奴で、退屈な奴と紹介した藤森にではなく、弘吉は、露石に無愛想に、呟くように言った。
東京で一人変わった人に会いいました。その男は青山の南町に住んでいると言って盛んに家に寄るよう言っていた。
「青山南町?」露石は顔を上げた。「そりゃいい所だ。あの辺はいい家ばかりがあるから、その人もいい身分の人だろな?」露石は、当たり障り無く答えた。
弘吉は、珍しく笑った。そして変わった場所で会ったと付け加えた。
仙太郎が急に弘吉に言った。最近妙な男がこの辺をうろついているらしい。硯の原石探しにやってきたよそ者らしいとの推測で一致した。
登場人物のつながりが一気に明らかになる。

捜査本部では乳を抉られて殺された男の割り出しに躍起となっていた。
ズボンの折り返しに入っていた黒い石屑から思わぬ情報が入ってきた。被害者の情報は県警を通じて、火山系の地域である上州、信州、甲州に手配されていた。
山梨県の田舎町の駐在所からの聞き込み情報として捜査本部にもたらされたのだ。
捜査本部から捜査員が2名(上田警部補と小出刑事)早速派遣された。
駐在所で情報を聞いたが雲を掴むような話で要領を得ない。情報源でも有る鉱山へ向かうことになる。
宝鉱山株式会社の現場事務所に顔を出す。事務所と言っても飯場小屋である。写真を見せながら男の確認をしていた。
あっさりと男の存在を認めた。駐在所の情報通りうろついている男を見かけたというのだ。
杉田一郎という保安主任が答えてくれた。
収穫の有った二人は捜査本部に帰った。報告を受けて捜査会議が始まった。その途中で本庁から捜査主任へ呼び出しが掛かった。
本庁に帰ると、一課、二課、三課の課長、係長クラスも刑事部長室に召集が掛かっていた。
刑事部長は、話し始めた。話は国際的な問題にも関係があることで、上の方からの指示で心して聞いてくれ...
東南アジアのR国の政府から調査団が来る。それは戦時中、日本軍が現地で略奪した物資の調査らしい...
調査団は公式のものではないらしい...
所謂隠匿物資の捜査と言うことになりそうだ。
話はあまりにも大きすぎた。少し唐突な感じもする。

ここで、当時の現地の責任者の存在が問題になるが割愛する。(小説には数名が記述されている)
問題は、調査団がどの程度の事実関係を掴んでいるかである。物資のありかなど掴んでいるとすれば誰の情報だろう。
おそらく日本人の情報に違いない。その目的は...推測はつきない。
外国の調査団が来日する具合だから、相当な情報を持っているのだろうと刑事部長も推測した。それも日本人からの情報だろうと見立てた。


被害者の身元が割れた。
それは、全国の警察署に身元照会の手配がされている中での反応で、愛知県南設楽郡風礼署からの通告だった。
硯職人、門脇順平三十二歳。風礼町塩川の在。実兄が上京し被害者を確認した。
北都留郡沢辺村付近をうろついていたことも、鋭利な刃物で乳の部分を抉られた事情も解決した。

一方、崎津弘吉は、新聞で門脇順平が殺された事件に興味を持った。それは、殺された男が硯職人で硯の原石を求めて沢辺村付近をうろついていたことだった。
もしや、沢辺村付近に硯の原石があるのではと考えたのだった。従兄の仙太郎に話したが、「止した方がいいぜ。」の言葉を聞きながら
もし原石が無かったもう一度東京に行ってみようと思っている。の言葉を残して出かけていった。
甲府から塩山へ、そこからはバスで沢辺。終点で降りると駐在所があった。駐在所で呼び止められた。この駐在所は東京から2名の刑事が捜査に来たところだった。
職務質問は、先の調査と重なってくる。
駐在所の巡査と話している間に一台のジープが通りかかる。ジープには四人乗っていたが、そのうちの一人が降りてきた。井上代造だ。
「やあ、君じゃないですか?」背広姿の男は、井上代造。

井上代造は、「臨華荘」の板倉彰英に会いに行った。骨董屋と面談中で女中には断られたが、強引に会いに行った。板倉も鷹揚に迎えた。
骨董屋には、北斉時代の「仏」を勧められていた。800万だという。(井上は、中国の北斉時代を、北斎と勘違いする/骨董では、「仏」ブツというらしい)
骨董屋は「仏」を置いて帰った。密談が始まる。
二人の話は、ぶつ切れの話で、具体性が無く途切れ途切れに続く。二人にはそれで十分わかり合えるのだ。
板倉の話の中に、
「われわれの内から敵が出たとは、心外だった。いや、井上君、これはスパイと決めていい。誰だかわからないがね、敵に通報した奴がいる。」
板倉は話したものの、誰か見当が付かないようだ。
「それを、今、捜している。が。敵も巧妙で、なかなか、しっぽを出さん、」井上君。と、急に強い眼で見た。(これは刑事部長の見立てと一致する)
板倉の話は、
「ところで、君。例の事件は、どうなっているかね?」「...どうやら迷宮入りのようですね。...」
井上の答えに、満足そうな表情をした。冷たい微笑が浮かんでいた。

井上は自宅に帰った。家には、崎津弘吉が待っていた。妹の美沙子が言うには、待っているといったものの、五、六時間寝ているとのことだった。
美沙子は、無口な崎津弘吉を変わった男だと思ってはいるが、家の来ることを待っていた兄と、偶然山梨で会ったことを機縁と思っていた。
二階で寝ている崎津弘吉を起こして、就職祝いだと連れ出す。
タクシーで新宿方向に向かった。車中で弘吉は、井上が留守がちになる為、一人で留守番をする美沙子を気遣う。
大日建設株式会社の川崎の資材置き場の管理で、月給二万円。名前も聞いたことの無いような三流会社の守衛みたいな仕事だが弘吉は満足した。
井上の家から通うわけにも行かず、会社にある寄宿舎のようなところに住むことになった。
井上は、腰掛けの仕事で悪いが、きっと大学中退の崎津弘吉に見合う仕事を見つけてやると力説説得した。
尚も妹のことを心配する弘吉に、「...そのうち、あの妹はなんとかさせたいと思っている。」と、井上も気にしている様子だ。

殺人事件が起きた。三十七歳の男。浮浪者風、工場脇の溝にその死体はあった。

身元を特定できる所持品は無かった。
財布には二千六百五十円。小銭が650円だが、千円札が二枚。

他には紙切れが一枚。
殺された浮浪者は左の紙切れを所持していた。
物取りではなさそうだ。

身元が割れた。
通称”鉄ちゃん”ガード下に小屋を造って住んでいるルンペンだった。
鉄ちゃんには、”クメさん”という同輩がいた。
クメさんは、鉄ちゃんが2650円の金を持っていたことに驚いた。
メモの字は鉄ちゃんの字では無いと言った。
鉄ちゃんは、麻袋に鶴嘴とシャベルを入れていた。


死体の側は、工場跡地らしく半分は廃墟になっていた。有刺鉄線が張られていたが、その一部が切断されていた。
元は大きな軍需工場だったようだ。鉄ちゃんは工場内でどこか掘り返すつもりだったようだ。
工場の隅っこに事務所があり「大日建設株式会社」の看板が出ていた。崎津弘吉の勤める会社である。
事務所にも刑事は聞き込みに入った。鉄屑目当ての盗人だろうという見当だった。
メモに書いてある錫や白銀はないかとの問いは、一笑に付された。刑事に対応したのは警備員の主任、黒田という男だった。
そのやりとりを後ろで聞いていた一人が、崎津弘吉だった。
虚無的な崎津弘吉は、案外に今の気楽な仕事に満足していた。
弘吉は、与えられた宿舎に帰った。宿舎と言っても会社が借りている下宿屋で、二階に彼一人が住んでいた。家主のおばさんから手紙を渡された。
井上代造からの手紙だった。「今夜、来宅ありたし、午後八時まで待つ。」とあった。
殺人事件の捜査に進展は無かった。捜査会議で、メモの件が話題になり、一人の刑事が面白いことを言った。
メモは、終戦後巷で噂された、軍需物資の隠匿物を言っているのではないか...
メモの出所は不明での内容も解決には結びつかなかった。
そんな中、意外なところから情報が入ってきた。
K駅近くの、屋台のおでん屋からの情報だった。二人連れのお客で、三十五,六の小太りの関西弁を話す男。もう一人が”鉄ちゃん”らしい。

崎津弘吉は、井上代造の家に行った。手紙を受けてのことだった。
美沙子が出てきた。井上は寝ていたが、呼びに二階へ上がった。弘吉と井上の話にお茶を出す美沙子が加わった。
近況を聞きながら雑談だが、井上は美沙子の存在が邪魔なようだった。弘吉は、会社の近くで起きた殺人事件を話した。
例の紙切れについても話した。井上は事件に興味を示した。美沙子も井上以上に興味を示し、紙切れについても兄に尋ねるのだった。
井上は少々煩わしくなっていた。
そこに来客があった。「杉田さんがお見えになりましたわ。」美沙子が取り次いだ。
井上代造と杉田一郎は以前からの知り合いだった。太い眉と尖った顴骨に特徴があった。ジープに乗って現れた四人組の中の二人が、井上と杉田。
杉田が居ることにも構わず、井上は手紙の用件を話し始める。

警視庁の能勢刑事部長は中野博圭邸を訪ねた。中野博圭は保守党の大物政治家。
中野博圭には、警視総監から連絡が入っていた。大勢の来客がある中、能勢刑事部長は中野博圭に会うことが出来た。
「うちに警視庁の者がくるのは、久しぶりじゃよ。五年前に、例の開発問題で、警視庁にはひどく追い回されたことがあったがな、は、ははは。」
来意を告げるると驚いた。切り出した話が殺人事件だったからだ。「大日建設株式会社」の社長が中野博圭なのだ、勿論名前だけなのだが。
しかし肝心の話は、殺された男の持っていた紙切れの内容なのだ。
もしや、事務所のある工場跡の敷地に錫や白銀が保存されていないか...中野博圭は、一笑に付した。しかし、言葉とは裏腹に興味を示したようだ。
名目だけの社長で有ることは認めたが、誰に頼まれたかは明言しなかった。
刑事部長が帰ると、来客中でもあるにかかわらず、中座すると板倉彰英に電話をした。警視庁からの来意を報せた。
中野博圭は、板倉彰英に頼まれて社長を頼まれていたのだ。もしや、あの工場跡地に錫や白銀があるのではとその嗅覚を働かせたのだった。
電話を受けた、板倉彰英の側には、杉田一郎がいた。電話が終わった頃井上代造がやってきた。
ここまでくると、板倉・井上・杉田らの行動の全貌がおぼろげながら見えてくる。
三人の話でも「裏切り者」が誰か話題になるが、板倉にも分からない。ただ、この件に対す井上代造の反応が妙にわざとらしい。
前回は、
「けしからん話しです。」井上は唇を曲げた。
今回は、
「畜生!」と、井上代造が肘を張って叫んだ。

あちらさんの来日が、あと一週間、あちらさんとは、某国の調査団。団長がルイス・ムチル、歳は四十六歳、やり手らしい。
総勢10名の調査団だ。帝国ホテルに滞在するが、ルイス・ムチルが、無類の女好きで別に宿をとっているというのだ。女付で...
宿は代々木駅の近く、「秀峰荘」といった。

小説に登場する場所が 代々木倶楽部の場所では?
新日鐵が所有する研修施設であり、「新日鐵代々木研修センター」である。

付近がによく似ている。









三人の悪だくみは、崎津弘吉を巻き込んで計画されているようだ。

調査団一行は到着した。観光視察が名目だ。
空港には、井上と杉田がいた。出迎えに来たわけではないようだ。団長のルイス・ムチルを確認しでも来たようだ。
二人は直接顔を合わせること無く、他人のような態度で明日の計画を確認していた。
ルイス・ムチルにあてがわれた女はキャバレー・スイトピーの洋子という女だった。
杉田以外に、もう二人男がいた。「予定の男だ。」井上は初めて見る顔だった。杉田と二人は別々に空港を後にした。
井上はひとり、杉田と別れて、国内線のロビーに降りて、公衆電話に向かった。
「大日建設株式会社」の事務所に電話をして崎津弘吉を呼び出そうとしたが,弘吉は会社を休んでいた。
「これだけはぜひ伝えてほしいんです。明日の晩に頼んだことは、都合で中止にしてくれ、と。」
明日出てきたら必ず伝えるように井上代造と名乗って念を押した。それも、板倉彰英の名まで出して伝えた。
井上が電話で伝言したのは黒田という警備主任の男だった。相手の声は少し面倒くさそうだった。(すでに板倉の手が回ったのか?)

井上は先に出た杉田を追った。車に乗っている杉田と合流する予定だったのだ。
車を探す井上に声をかけた男がいた。井上の知らない男だ、案内をすると先に歩き出した。疑いもせず井上は後に続いた。

崎津弘吉は、指示通り代々木駅近くの指示の場所で待っていた。井上代造の伝言は伝わっていなかったのだ。
井上代造の指示は奇妙なものであったが、予定の時刻になると指示に近い出来事が起きた。
「君、これを頼む。」有無を言わせず男から荷物を受け取ることになった。ハンカチに包んだ荷物はピストルだった。
突然三四人から追いかけられた。逃げるのが無駄であることが読み取れた。崎津弘吉は、なぜこんな事をしているのだろうと自分が虚しくなった。
それもあって足を止めたが、三四人に殴られる羽目になった。「殴るな。」その中の一人が止めた。後で警察が来る逃がすな。

訳の分からないまま警察に連行された崎津弘吉。取り調べには素直に答えた。井上代造に頼まれたこと以外だが。
その日の取り調べは簡単に終わった、翌日、朝から取り調べは始まった。主に捜査一課長、小川警部と三課長も加わった。
まるで禅問答だ。
崎津弘吉は、ピストルを所持していたこと以外は知らないの一点張りだった。秀峰荘も知らない、誰を撃ったかも知らない、撃ってもいない。
弘吉は本当のことを言っているだけだった。誰に頼まれて現場にいたこと以外は。
取調室に一人の女が入ってきて、崎津弘吉はを見つめていた。女は、ルイス・ムチルにあてがわれた洋子だった。面通しだった。
女はルイス・ムチルを撃ったのは崎津弘吉だと証言した。

独房で考えに耽る崎津弘吉であった。井上代造に嵌められたのだ、騙されたことは間違いない。
だが、弘吉は、警察に井上の名前は出さなかった。井上の不思議な魅力と妹の美沙子の存在が頭に残っていた。
井上の風貌行動から、井上が右翼の関係者ではないかと考えた。取り調べでしきりと何処かの団体の構成員ではないかと聞いてきた。合点がいくことだった。
崎津弘吉は、急に釈放された。嫌疑が晴れたと言うのだ。

小説はこのあたりから結末に向かって動き出す。小説は、半分と少し超えた分量まで進んでいる。
崎津弘吉の活躍が始まる。虚無的で無気力な男が探偵として覚醒する。

釈放された崎津弘吉は、新聞記事が眼に止まった。それは政治面だった。
「××発EP-----去る五月十一日、観光事業調査のため、調査団十名と共に日本に行き、東京で急死した団長ルイス・ムチル氏の告別式...」
記事は続いてルイス・ムチル氏が、心臓麻痺で急死したことを告げていた。遺体は、日本政府が送り返したことも書いてあった。
弘吉は、思い当たった。取調官はしきりに背後関係を聞いた。殺されたのは、髪の毛の縮れた”大きな男”と言っていた。
殺されたのは外国人で、心臓麻痺ではない。ルイス・ムチル氏だ。政治関係の匂いのする事件だ。

崎津弘吉は、大日建設株式会社の事務所に向かった。
事務所では、対応した黒田警備主任に 馘首(くび)を通告された。理由は警察に捕まえられている間の無断欠勤かもしれないが、どうでも良かった。
帰り際に、黒田は井上という男から電話で、伝言があった旨、伝えてきた。
電話のあった日の翌日崎津弘吉は、都合で出勤していなかったのだった。
黒田が伝言を忘れたわけでは無かった。(この事実までは、黒田が何者かの指示で伝言を伝えなかったと思った。伝わっていれば現場には行かなかったはずだ。)
なぜ、井上代造は、計画の中止を連絡してきたのだろうか?実際は指示された計画通り事態は進んで、弘吉は捕らえられた。

崎津弘吉は、青山の井上代造の家に向かった。
美沙子は居なかった。近所の主婦から「井上さんはね、亡くなられたのですよ。」
交番からの連絡で殺されたらしい。美沙子は現場に向かっていた。現場は八王子の外れの山林の中。ビニール紐での絞殺。

近所の人と、友人が四、五人の寂しい葬式だった。その中に、宝鉱山の保安主任杉田一郎、書家の村田露石がまじっていた。
美沙子は、弘吉にうちわけた。「兄がこんなことになるという予感は、前からないでもなかったんです」
そして、改めて言った。「弘吉さん、あなただけにお話ししますわ。警察の方にきかれても、これだけは言いませんでした。」
700万円の預金通帳が出てきたと言うのだ。大金である。崎津弘吉の給料の2万円と比べてもわかる。
美沙子と崎津弘吉の間柄が急に近づいて感じられる。
兄を亡くして心細い美沙子、それを労りながら後ろ盾になってやろうとする崎津弘吉。
仏様の守を交代でするためひとまず、今は二時半、五時になれば起こしてもらうこととして、弘吉は二階で休むことになった。
寝付かれない弘吉。
井上はなぜ殺されなければならなかったのか?
大日建設株式会社の近くで殺された浮浪者...持っていた紙切れ。貴金属の隠匿・錫や白銀
某国の高官の死。
いつの間にか寝ていた。
眼が醒めたときは、六時半。外は明るくなっていた。慌てて起きた。階下に降りた。仏壇のローソクは消えていた。美沙子の姿は見えなかった。
川で、女の人の死体が浮かんでいる。交番へすぐ行くように、タクシーの運転手からの奇妙な呼び出しで、××派出所へ出かける。もしや美沙子では?
交番はあっけにとられている。しかし、事件はあった。女の死体が上がっていた。死体は女で、二十二三歳。合っている。
しかし、違っていた。だが、弘吉の知っている女だった。あの時の女だ。キャバレーの女で、ルイス・ムチルにあてがわれた洋子だった。

崎津弘吉は、井上の家に戻った。そのままだった。
弘吉は、銀座のキャバレー“スイトピー”へ行った。週刊誌の記者と名乗り聞き込みを始めた。偶然中野博圭に出会う。
弘吉が聞いたのは、「
がっちりとした体格で、三十前後の年輩...そして色の黒い」。杉田一郎のことだろうか?”スイトピー”に来ているらしい。

店を出て井上の自宅に戻る。戸締まりもせず出かけたのだが、美沙子はまだ帰ってきていなかった。
しかし、何かが変わっていた。井上代造の遺骨箱が無いのだ。誰の仕業だ。遺骨箱を持ち去る理由があるのは美沙子だが...
それは、考えづらい。
美沙子は拉致されただけで生きている。崎津弘吉は、安心した。

崎津弘吉は、板倉彰英の邸宅に向かった。しかし板倉彰英に面談するすべが無い。
美沙子は強制的に拉致されたのでは無い可能性がある。美沙子が示した700万円の預金通帳の金の出所は板倉だろう...弘吉は、思い巡らす。
ふと弘吉は思いついた。書家の村田露石のことだった。それは、井上代造の交際範囲から言えば、板倉以外には村田露石と杉田一郎が考えられる。
露石の方が取っつきやすい。露石は池上本門寺近くに住んでいた。
露石は妻とは死に別れ、今は通いの五十歳ばかりの女がいた。来意の目的として、美沙子の失踪と井上代造の遺骨の紛失を報告した。
>「なに?」 眼をむき、こめかみにたちまち青筋が出た。
>「そりゃ、君、本当か?」

村田露石も事態が飲み込めず、顔をしかめるばかりだった。
崎津弘吉は、井上代造を殺した犯人を自ら捜すと意気込んで宣言した。
弘吉の読みは...井上代造の殺人事件は根が深い、今度狙われるのはぼくだ。ぼくが躍起になって犯人を捜す。彼らは、ぼくを監視しているはずだから
ぼくが邪魔になってキット動き出す。その出方を待つ、と言うのだ。
露石も賛意を示す。さらに、なんだったら、わしも手伝いをしようと申し出た。親切だ。
露石から板倉彰英の出自を聞き出すなど、大まかにも理解出来た。
板倉彰英は、三十五歳ぐらい、十八歳頃兵隊逃れに軍需省の雇員になり、戦後は闇で稼いだらしい...
儲けた金で、R産業の岩村修平に取り入りった。
噂話も交えながら、露石は、それなりに詳しく話をしてくれた。
井上代造や杉田一郎のことも尋ねた。
板倉彰英の会社である、「宝鉱山」にしても「大日建設株式会社」にしても活動の実態が殆ど無い、それでも事業として継続している意味があるのだろか?
露石も同様の疑問を持っているようだ。

崎津弘吉は、村田露石の家を後にして、井上代造の家に戻った。家主が不在でも新聞は届く。新聞に眼を通す。
暇があれば、彼の考える行為は続く。
洋子殺しの事件も進展がなさそうだ、大日建設株式会社の横の溝で殺された、浮浪者、通称”鉄ちゃん”の身元が判明した。
鳥取から上京した姉の証言で、大原鉄一、三十七歳。と、判明した。
大原鉄一は、戦時中東京憲兵隊の伍長だった。戦後、郷里の鳥取県で農業を手伝っていたが、昭和三十年頃突然東京に出て行った。
憲兵→錫・白銀...
崎津弘吉の、頭はフル回転で答えを求めていた。新聞を読み終えた弘吉は、突然ひらめいた。
大日建設→埋蔵された貴金属→井上代造の大金→板倉彰英。
連想は続く。軍需省の雇員→憲兵伍長

崎津弘吉の手には負えそうも無い事態になった。
弘吉は警視庁捜査一課へ向かった。目的は、大原鉄一の姉に会うことだった。
例の事件で散々取り調べを受けた、警視庁の小川警部に会うことが出来、来意を告げ、大原鉄一(鉄ちゃん)の姉がまだ東京にいるのではないかと尋ねた。
親切に、警部は姉の居所を教えてくれた。神田の旅館。警部は姉に会う目的を聞いたが、「姉さんに、お悔やみを言おうと思うんです。」

旅館の大原サクを訪ねた。旅館は修学旅行の客で賑わっていた。
弟の落魄(衰える 衰え 衰え果てる 衰退 衰退の一途を辿る 衰微 )を悲しんだ
大原鉄一が上京するきっかけを聞き出した。上京前に、郷里で地方紙の「山陰日報」を繰り返し読んでいた。
誰に会いに行くと行っていたかの問いに、
「はい、鉄一の憲兵時代の上官です。植田大尉です。」目標の人物は他にもあると言っていた。

刑事や探偵では無いが崎津弘吉の、捜査は続く。
大原鉄一が、板倉彰英邸へ出入りしていたのではないかの推測から、書道家の村田露石の家に行くことにした。
露石は歓迎してくれたが、大原鉄一なる人物は知らないと断言した。
露石が板倉彰英邸に出入りし始めたのが三年ほど前。大原鉄一は、五年ほど前からの出入りしていた可能性がある。露石が知らないのも道理だ。
露石の家を出て、近くの神社の石段に腰を掛け、またしても崎津弘吉は、考えに耽った。とてつもない長い時間だった。弘吉はようやく腰を上げた。
行き先は、川崎の大日建設株式会社。そこで弘吉はとんでもない光景を眼にする。
大日建設株式会社は、消えていた。あるのは、「東洋自動車株式会社川崎整備工場建築場 施工株式会社小原組」の看板。

崎津弘吉は、”山田探偵社”に飛び込んだ。以前見かけた探偵社だった。
知りたいことは、大日建設株式会社が東洋自動車株式会社川崎整備工場へ変わった経緯と東洋自動車株式会社の資本関係などだ。
これは専門家に頼る方が早い。今日中に調べてくれ、金に糸目は付けねとする勢いで頼んだ。”山田探偵社”は、引き受けてくれた。
弘吉は建築現場の人間から聞いた、現場監督の自宅に向かった。
脇から、本線に迫ろうとしていた。きっと、小原鉄一は、板倉彰英に直接会っただろう。
板倉は驚いたが、鉄一より役者が一枚上手だった。あしらわれたのだろう。
崎津弘吉の、此処までの手際は、探偵顔負けで、井上代造が、必要とした人物では無く、理知的で、ある意味正義感に富む好青年だ。
弘吉の思考は、井上代造が”裏切り者”として殺されたのではの考えまで行き着く。


小説はここで、中見出しが『考える葉』になる。考える葉は崎津弘吉のことだろう、
崎津弘吉の、思索は深まるばかりであるが、おぼろげながら輪郭が見えてくる。
崎津弘吉は、電車の中で小川警部に声をかけられる。小川警部は弘吉に声をかける前から隣に座っていたらしい。気がつかないほど考え込んでいた。
電車は警部の方が先に降りた。突然先に降りた小川警部の後を追った。(これから弘吉と小川警部は連絡を取り合う仲になっていた)

『考える葉』の中見出し時点で、崎津弘吉は、事件の概要を掌握していた。ただ一つ植田憲兵大尉の存在が分からなかった。

結末は『眼の壁』を彷彿とさせる。そして、犯人どもは断崖に追い詰められたところで自ら事件の全容を告白する。『ゼロの焦点』でもある
杉田一郎は、崎津弘吉を追い詰め事件の全貌を話す。板倉彰英は自ら仕組んだ計画に失敗し、崎津弘吉に問われながら全てを喋る。

●蛇足的疑問
①板倉彰英と井上代造の関係が今ひとつ理解出来ない。
②板倉と井上の間で、崎津弘吉を「ルイス・ムチル」の殺人犯に仕立てる計画が有ったとすれば無謀すぎる。弘吉が井上代造の名を出さない保証は何も無い。
③「裏切り者」井上代造だが、なぜ裏切ったのだろうか?
④村田露石は、それなりの金を手にしながら吝嗇な男だ。
⑤崎津弘吉の人物像が前半と後半とでは一転する感じがする。
⑥⑤に関連して、後半は、崎津弘吉の好青年ぶりが際立つ。美沙子との関係で、恋愛小説的な趣がある。
⑦井上代造が崎津弘吉を見いだす事件は、あまりにもご都合主義の感じがする。(適任者が偶然同じ留置場存在するであろうか?)。
⑧村田露石は、身の危険を感じていなかったのか?逆に板倉彰英は、なぜ早く露石を始末しなかったのか?
⑨村田露石は本当に小原鉄一に会っていなかったのか?(小原が上京後、あるいは「臨華荘」で会っていなかったのか?)
小説に全てを書き込む必要は無いが、物足りない。
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話の展開としては面白いのだが、所々に他の作品の影が見え隠れする。後半は探偵「崎津弘吉」の感じで展開する。清張パターンとも言える。
比較的似ている『眼の壁』は、【週刊読売】1957年(昭和32年)4月14日号~12月29日号」
「考える葉」は、【週刊読売】1960年(昭和35年)6月3日号~1961年(昭和36年)2月19日号。どちらも【週刊読売】なのが興味深い。

やはり着想は、「眼の壁」で、「考える葉」が発展版なのだろうが、消化不良気味だ。【
検索キーワード:隠匿〈物資〉
板倉彰英が井上代造を「裏切り者」として疑っている様子は示唆的に書かれいるが、それを感じ取っているの、井上代造の否定し方がわざとらしい。
「考える葉」は、松本清張全集にも収録されていない。清張も「考える葉」の出来には不満があったのでは.....やはり物足りない。
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弁解録取書
刑事事件の手続において,弁解録取(べんかいろくしゅ)という手続があります。
逮捕された場合に,逮捕の理由となった犯罪事実の要旨が告げられ,
また弁護人を選任することができるということを告げられた上で,弁解の機会が与えられ,その弁解を録取する手続。












※青山南町
南青山(みなみあおやま)は、東京都港区にある地名。
現行行政町名は南青山一丁目から南青山七丁目。赤坂地区総合支所管内に属する地域である

※「臨華荘」:岩村修平と板倉彰英のつながりの説明の中で...
岩村修平の正体、板倉彰英の成り上がり物語が一通り説明され、『臨華荘』の正体が説明されている
>二三年前、K元首相の別荘であった、都内S区の、”臨華荘”を手に入れ、その広大な邸宅にたった一人で暮らしている。
都内S区:杉並区
臨華荘:萩外荘
K元首相:近衛文麿

これで、ほぼ決まりだ
『臨華荘』=『荻外荘』は、「眼の壁」でも同じような舞台設定があった。
(確認はしていないが、「けものみち」の鬼頭洪太邸も同じでは...イメージだけかも/テレビドラマでは松本清張邸が舞台として使われた。)
>東京では北の方にある区。そこは、武蔵野の名残がある雑木林が至る所に残ってい。元総理大臣をやった人の別荘で『臨華荘』といった。



2021年01月21日 記

登場人物

井上代造 板倉彰英の仲間だが、裏切り殺される。二人の関係は上司と部下ではなさそうだが、判然としない。留置場で崎津弘吉と知り合う。
井上が留置場に入ったのは目的があった。崎津弘吉の様な人間を捜していた。結果崎津弘吉を、を事件に巻き込む。
途中で事件から手を引かそうとするが間に合わなかった。青山に住む。妹は美沙子。体格が良く大きな男
、三十五歳
崎津弘吉 山梨県の落石(オチイシ)村出身。それなりに手広く営む硯職人の家に生まれたが、没落した。両親は死亡。従兄の崎津仙太郎に世話になっている。
警察の留置場で井上代造と知り合う。井上の誘いに乗り事件に巻き込まれる。最初は虚無的な人間として描かれるが美沙子と出会ってからは、好青年。
崎津仙太郎  崎津弘吉の従兄。硯職人。村田露石の依頼で硯を掘ることになる。 
板倉彰英 板倉産業の社長、宝鉱山の社長でもある。岩村修平に取り入り、戦後のどさくさでのし上がり現在の地位を築く。数々の事件の首謀者。
井上代造には裏切られる。隠匿物資を手中にして一旗揚げたが、露石に強請られていた。
村田露石  板倉彰英に書道を教えている。実は、植田憲兵大尉。大原鉄一(伍長)は元部下。隠匿物資で板倉を強請っていた。
目的があってか崎津弘吉に親切だった。
上田警部補  捜査本部の刑事、小出刑事と山梨へ捜査に向かう。 
小出刑事  捜査本部の刑事、上田警部補と山梨へ捜査に向かう。  
杉田一郎 板倉彰英の腹心であり忠臣。板倉のために、多くの殺人事件に手を染める。最後は崎津弘吉との対決になり、坑道に没する。
がっちりとした体格で、三十前後、色が黒い。
小川警部  崎津弘吉が、 ルイス・ムチル殺害の容疑者で捕まった時の取り調べ担当。後に無罪放免となった崎津弘吉を目に掛けて助ける。
岩村修平  R産業株式会社の社長。板倉彰英の後ろ盾。 
井上美沙子 二十三歳。井上代造の妹。井上代造の仕事内容など全く知らない。
事件に巻き込まれ、杉田一郎に拉致・監禁されるが、命は助かる。崎津弘吉に好意を抱く。
 
中野博圭(ナカノハクケイ) 大臣も経験したことがある、保守党の一方の派閥の頭領。金目の話には嗅覚が利く。かって疑獄事件に巻き込まれたことがある。
鉄ちゃん  大原鉄一、三十七歳。戦時中東京憲兵隊の伍長だった。戦後、郷里の鳥取県で農業を手伝っていたが、昭和三十年頃上京。殺される。
植田憲兵大尉は上司
クメさん  鉄ちゃんの仲間。鉄ちゃんは浮浪者だが、クメさんは家族持ち
黒田警備主任  大日建設株式会社の警備主任。崎津弘吉が、井上代造に紹介されて就職先の主任。崎津弘吉の上司。 
門脇順平  硯職人、平三十二歳。風礼町塩川の在。硯石の原石を求めて川辺や落石をうろつく。偶然隠匿物を見つけるか? 
硯職人の証拠になる胸の傷をえぐり取られ殺される。実兄が上京し被害者を確認した。
洋子  キャバレー“スイトピー”のホステス。某国の観光調査団団長、ルイス・ムチルにあてがわれた女。口封じに殺される。
八重子  キャバレー“スイトピー”のホステス。崎津弘吉が週刊誌のライターを名乗って情報を聞き出す。洋子の様子や井上代造が出入りしていた事など話す。 
植田大尉  憲兵大尉。村田露石。大原鉄一(鉄ちゃん)は元部下。板倉彰英の書道の先生をしながら、板倉を強請っていた。
それなりの金を手に入れているはずだが吝嗇。 
ルイス・ムチル   四十六歳、やり手。某国の観光調査団団長。名目は観光調査団だが、「隠匿物資」の調査が目的。無類の女好き。殺される。

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