紹介作品 No_038  【薄化粧の男


紹介No 038

【薄化粧の男】1961年3月婦人公論〕1961年3月号


三月三日の午前五時半ごろだった。夜明けの光が雑木林の向うに蒼白く射している。あたりはまだうす暗かった。......◎蔵書◎松本清張全集 1 点と線・時間の習俗(株)文藝春秋●1971/04/20/初版より

昔録画した清張原作のテレビドラマを意識的に見ている。「渡された場面」「喪失の儀礼」「強き蟻」
そして「薄化粧の男」。録画しただけで見るのは初めてである。

共犯者が不仲を演出し、最後に犯人として登場する結末である。
共犯者が、互いに相手を犯人呼ばわりすることで自己保身をはかり
お互いのアリバイを証明する。隣人という他人を客観的証人へと仕立て上げる。
一年半待て

喪失の儀礼」の嫁と姑。そして「薄化粧の男」の本妻と妾(愛人)である。
テレビドラマは”いかにも”と言った感じの不仲の演出が気になり、小説と映像(ドラマ)の違いが
際だった感じでした。

小説「薄化粧の男」は、とにかく登場人物が少ない。
フルネームで登場するのは三人だけである。名字だけの人物もいない。

タイトルからの想像とは違った。
>若いときの美男子が年を取って衰えたときほど哀れなものはない。
>かつての美貌には皺が波立ち、皮膚がたるみ、衰弱が到るところに顕れている。
>ところが、草村卓三自身は、まだ自己の美貌に自信をもっていた。これは滑稽な話話だが、
>頭髪を黒く染めただけではなく、彼は淡い色の着いた眼鏡を掛け、ときには己れの顔に
>薄化粧を施したりした。

草村卓三は、吝嗇で、「鼻持ちならない男」であった。
そんな、草村卓三にも愛人がいた。風松ユリである。
卓三はユリを椎名町へ囲う。卓三の妻淳子は、たびたび愛人のユリ宅へ押しかける。
女二人の修羅場が始まる。勿論近所の主婦など目撃者多数。

この二人、本妻淳子と愛人ユリが共謀して卓三を殺害するのだ。
二人はそれぞれの新しい生活が始まる。
風松ユリの自殺を聞いた、草村淳子の不安。
自殺の原因を「殺人の呵責」と考える草村淳子の行動は、墓穴を掘ることになる。

この小説では、殺人の計画性、そのトリックなどたいした問題ではない。と思う。

薄化粧をする男の心理。共謀する本妻と愛人。なぜ事件が発覚するのか
共犯者は常に心理的脅迫者として存在する。
共犯者


※発見
化粧する男 田村光男著(光陽出版社)
人材派遣会社に登録する息子の身代わりに勤務。60をすぎた男は慣れない手つきで化粧を...


2008年05月23日 記

登場人物

草村 卓三 吝嗇で、「鼻持ちならない男」。小田護謨株式会社、庶務課長。
草村 淳子 草村卓三の妻。夫の愛人(ユリ)と共謀して、夫を殺す。
風松 ユリ 草村卓三の愛人。元は銀座のキャバレーの女給
牛乳配達人 十七歳の少年

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